人類至上主義を確固たるものにした「虚構を信じる力」の正体とは。『サピエンス全史』の訳者 柴田裕之に聴く(対談第2回)

柴田裕之

イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの世界的ベストセラー『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(上下巻)と『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』(上下巻)。その訳者である柴田裕之氏との対談第2回をお届けする。(第1回はこちら

虚構を信じて突き進めるのは人間だけ

武田 隆(以下・武田):前回は、人類が「虚構」である信用(クレジット)を発明したことによって、急速に発展を遂げたところまでお話ししてきました。農業革命においても、虚構がキーワードのようです。

従来の見方では、開拓者たちがまず村落を築き、それが繁栄した時に、中央に神殿を建てたということになっていた。だが、ギョベクリ・テぺ※の遺跡は、まず神殿が建設され、その後、村落がその周りに形成されたことを示唆している(サピエンス全史・上・P121)
※ギョベクリ・テぺ……紀元前1万年に完成したとされる、メソポタミア文明のトルコ最古の遺跡。

武田:これは発見です。そこに集団があり、人が増えていったから、神殿ができていったのだろうという学説が覆ってしまいましたね。

柴田裕之(以下・柴田):ハラリさんは、ここから「農業革命」(1万2000年前)が起こったと推察しているようです。

武田:この、神を信じるというのが、「認知革命」(7万年前)のなせる業なんですね。集団で一つのことを信じて、事に当たれるというのは、人間の強さでもあります。人間だけが、予想や悲観をする。だから“虚構”を信じて突き進めるのでしょうね。人間が安定した関係性を維持できる人数を示すダンバー指数では、150人が限界と言われていますが、虚構を信じることでダンバー指数を超える人数と繋がれるようになった人類は、生物として最強になっていき、他の生物を全滅させていったという……。

柴田:虚構を構築し、集団でそれを共有するのです。これも推定ですけれど、人類の行く先々で、他の生物にとっては悲惨なことが起っていたのではないでしょうか。

武田:ホモ・サピエンスがマンモスを狩るようになったら、2000年くらいで絶滅するという、妊娠期間と出産頭数を示した試算も納得しました。

柴田:人間が進出したあとに頭数が減り、絶滅していったので、人間の影響力が窺われます。

武田:マンモスの話は、農業革命の前ですから、ハラリさんが指摘している人間至上主義が出てくる前です。意識的にはアニミズムで、動物は交渉の相手だったのだけれど、サピエンスが集団化する強さで、人間は食物連鎖の頂点に上り詰めていく。

柴田:そうです、図らずも。人間は、すべてを支配するという意識は全くないままに、他の動物たちを絶滅に追い込んでいったのです。
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文=武田 隆

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