建築は数字で評価され、売買されることが多いが……
飯島邸は2階建て、部屋は「18平方メートル」が2つ。飯島夫妻は「学生さんの住むワンフロアの物件2つ分」と説明しているというが、ニコ設計室史上最狭小の家だ。
建築は「数字」で評価され、売買されることが多い商材だ。不動産業者たちは、広告に掲載する間取りを「2LDK」より「3LDK」にしなければ売りにくい事情から、建築家に、小さくてもいいから部屋数を増やしてほしいとリクエストすることもあるという。広さも、四捨五入してでも『6畳』とうたえる部屋ならOK」ということも。
「でも、2畳にも本当は可能性がある、畳2枚あれば、すごく体感的に素敵な部屋はできる。『数字じゃない気持ちよさ』は作れるんです」と西久保氏は言う。
「建築家は物を売る仕事ではありません。少なくとも『売っておしまい』にはならない。設計期間も1〜2年かかる上、その後もお付き合いしたいと思います。そうすると、あまり格好をつけていてもどうせ後でわかるので、ブログでいいところも悪いところもお伝えしています。おそらく、そこで失っているご縁もあると思うのですが、でも、飯島さんに出会えたりしたのは、あの『ぶっちゃけ全部出ている』ブログのおかげかもしれませんよね。
西久保氏の手は、話しながらも目まぐるしく動き、紙に書く。今描いているのは飯島邸の外観。
それから、数字や性能じゃない信頼関係が建築家と建て主の間にないと、怖くてタッグが組めない。逆にその信頼関係さえあれば、可能性が青天井になって、建てる家に小さな奇跡がいくつも起きます」
建築にはどうしてもリスクが伴う。たとえば「耐震保証」にしても、数学的に、ある仮定の下での構造的な強さとか性能といったデータは出せても、本当に大地震が来た時には実は保証どころではない。1級建築士の姉歯秀治氏が設計した家の耐震強度をごまかしていた「耐震偽装事件」が話題になったが、逆に東日本大震災では倒壊しなかった「姉歯物件」もあるという。本当に家はわからないから、建て主とは契約や保証以外のところでも絆を築けた方がいい、と西久保氏も言う。
建て主の飯島尚子氏