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2019.07.30 17:30

今、あえて地域密着。地元ならではの雑誌が作る賑わい


ところ変わって熱海から30分ほど伊豆半島を南に下った伊豆高原。木立に囲まれた別荘地の一画に、「壺中天の本と珈琲」というブックカフェがある。

オーナーはテレビ局を定年退職し、温暖な気候と豊かな自然を求めて7年前に移住してきたという舘野茂樹さん。筆者は熱海でカフェを営む友人を介して知り合った。膨大な蔵書を活用したカフェを運営しつつ、伊豆エリアのアートの振興にも努めている人物だ。彼の主宰で発行しているリトルプレスは、その名も『is』。アートを軸にしながら、伊豆の魅力を伝えている。


『is』を手がける舘野茂樹氏が営むブックカフェ「壺中天の本と珈琲」

「『伊豆高原アートフェスティバル』というイベントが伊豆高原で毎年開催されていたのですが、一昨年に終了してしまいました。私はアートに関心が深かったので、とても残念でした。だったら、自分で伊豆のアートと文化を発信する冊子を作ってみようと思い、『is』を刊行することに。アートフェスティバルは伊豆高原に地域が限られた、一過性のイベントでした。しかし、冊子なら広範囲に情報を取り上げつつ、継続的に発信できるというメリットもあります。もともと本や雑誌が大好きだったので自分で紙媒体を作ってみたかったことも理由のひとつです」

『is』が創刊されたのは昨年のこと。創刊号は多くの人に読んでもらえるように、あえてガイドブック的な作りを意識したそうだ。スタッフを募ることは特にしなかったという。


これまでに3号が発行された『is』。定価500円

「『is』を起点に色んな人たちがくっついたり離れたりしながら1つの冊子を作る形になればいいと思っていたんです。毎号、スタッフが変わってもいい。情熱を持った人たちは自然に集まってくれますからね」

『is』の2号目では、『紙本論』と題して紙の本をテーマに特集を組んだ。今年発行された最新号では、アートのある風景、本のある風景をテーマに、伊豆各地のアートスポットや開催される展覧会情報を掲載した。

また、舘野氏の膨大な蔵書を様々な店舗の片隅で販売してもらう“居候書店”という企画も冊子に連動する形で展開するなど、リトルプレスの枠を超えた広がりを見せている。
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文=高須賀 哲

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