特集は「あたみらへんの食べものがたり。」。中面を見ると、熱海に関わりのあるカメラマンが撮り下ろしたアウトドア料理企画に始まり、地元の生産者の話題やこだわりの飲食店など、知らなかった情報が満載。地元の人ならではの情報収集力や独自の視点があってこその編集内容となっている。
また、主に熱海・伊豆在住の人たちをはじめとした連載陣も個性豊か。自身の仕事やライフスタイル、趣味を反映させた記事は読み応え十分だ。筆者は伊豆の養蜂家の取材と伊豆の不思議スポットに関する連載を担当させていただいた。前述の喫茶店「MY TABLE」で創刊記念パーティーが催された。
「私自身が移住者ということもあり、NPO法人が作る移住者向けのフリーペーパー作りに参加したんです。しかし、資金などの課題もあって媒体がウェブに移行することになり、私の手を離れました。でも、出版の現場で仕事をしてきた人間としては、やはり紙媒体を手がけていきたかった。そこで、フリーペーパーをやっていた時に仲良くなった国分さんを誘って、独自にリトルプレスを立ち上げることにしました」
そう語るのは、結婚を機に、9年前に熱海に移住した大沼さん。
「『Hygge あたみらへん』は、まちづくりのためというよりは、色々な人がゆるく繋がって行くような媒体にしたかったんです。周りに住む人たちが、どんな想いで、どんな生活をしているのか伝えたかった。その一方で、熱海に住んでいても伊豆周辺の他の地域のことは意外に知らないものなんです。だから、“あたみらへん”という形でエリアを広げて、自分たちも知りたい情報を収集して発信していこうと考えました」と国分さんは続ける。
制作するうえで苦労したのは、スケジュールとコストだったという。
「国分さんは東京で仕事をしていますし、私も本業があるので、スケジュール通りに進めるのは大変でした。しかし、無事に創刊できたことで、スタートラインに立てたと実感しています」(大沼さん)
「最初はすべて自己資金で賄おうと思っていましたが、多くの人に知ってほしかったのと、今後も継続的に出版していくことを考えて、クラウドファンディングで資金を募りました。その結果、想像以上に支援をしていただき、いいものを作ることができました」(国分さん)
現在、『Hygge あたみらへん』は、全国各地の書店やリトルプレス専門店、ウェブショップなどで取り扱われている。4月に銀座ソニーパークで開催された「TOKYO ART BOOK FAIR: Ginza Edition」では、完売するほどの人気だったという。
「どこに住んでいてもプロが作れば形になるんだという自信が持てました」と大沼さんが語るように、『Hygge あたみらへん』は、スキルを持った移住者がそれを生かして地域に根ざした活動をすることが可能だということを示すひとつのモデルケースと言えるだろう。