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2019.08.03

温暖化を逆手にとる。愛媛の農家がブラッドオレンジに目をつけた理由

ブラッドオレンジ

農業従事者の高齢化、後継者の不足、海外の商品作物との価格競争。日本の農業は数々の課題に直面している。2017年の農林水産省の調査によると、主な農業従事者のうち65歳以上が占める割合は全国で57.4%と、20年前の3倍の割合になった。

ロボットやドローンなど先端技術を取り入れた「スマート農業」に対する期待が高まる一方で、投資に見合う効果が上がるのかと不安視する声もあがる。テクノロジーが発展し身の回りが便利になっても、人間の知恵や経験が果たす役割は大きいといえるだろう。

豊富な知識と長年の経験をいかし、日本の農業界で新しい挑戦を始めた柑橘農家が愛媛県にいる。高木農園を営む高木信雄さんは「温暖化を逆手にとった」発想で、ブラッドオレンジを日本に本格導入した第一人者だ。

京都大学農学部を卒業後、愛媛県の県職員となり柑橘の研究に没頭。愛媛県農林水産研究所果樹研究センターみかん研究所の初代所長も勤めた。


自然派ショップで期間限定で提供されたブラッドオレンジの甘酒

陽当たりがよく水はけのよい斜面で、ブラッドオレンジなど多様な柑橘類を完全無農薬で栽培。月間6トンほど出荷する。有機野菜の宅配業者や伊勢丹新宿店、表参道ヒルズのレストランなどと直接契約を結ぶ。

果実はどれも糖度が高いうえにオーガニックで育てられているため、通常の流通価格の2〜3倍ほどの値段で取引されるという。「レストランのシェフから直接要望を聞く」など、消費者のトレンドを掴むことが農家にとって大事だと説く。


瀬戸内海の温暖な気候は柑橘栽培に適している

ブラッドオレンジ栽培の始まりは2000年ごろに遡る。地球温暖化が進み瀬戸内海が地中海性の気候に変わってきた。栽培適温を超えると柑橘類に虫が多くつくようになり、高温が原因で皮と果肉の間に隙間が発生し味が落ちる「浮き皮」も増えてしまった。

そこで高木さんは「温暖化をいかした栽培方法」を取り入れようと、日本ではまだ珍しかったブラッドオレンジに目をつけた。ブラッドオレンジはイタリアなど地中海性気候の場所が生産の本場だ。シャーベットやジュースなどに使いやすく、付加価値をつけやすいと見込んだ。15年ほど研究を進め商品化に成功した。
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文=土橋美沙

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