NASAの宇宙飛行士として2001年と07年の2回宇宙に飛び、延べ132日間にも及ぶ長期滞在を経験したダニエル・M・タニ。
彼はNASAの「リーダーシップ」の定義を、「リーダーとは指示を出す存在ではなく、瞬間ごとに最大限チームに貢献する存在です」と言う。その力を養うのが、地上で行われるNASAのチームワーク訓練だ。「アラスカをチームでカヤック移動する訓練では、リーダーの役割を全員でローテーションして担当しました。NASAでは全員がリーダーであるべきだと教えられています」と言う。
では、そのNASA流の「リーダー」の役割とは何だろうか。日本人宇宙飛行士・若田光一は、「優れたリーダーは、状況に応じて、リーダーにもフォロワーにもなれる人物だ」と言っている。
タニはこう話す。
「優れたリーダーは、一瞬ごとに自分が何をすべきかを感じ取り行動します。そして全員がそんなリーダーであるべきです。リードするという概念は、とても些細な行動にも表れます。例えば、自分のいることによって視界を遮ってしまうとき、相手にとって対象物が見えやすくなるように少し自分が動いたりする。大きな決断ではないかもしれないですが、小さい決断の連続がチームに貢献してリーダーシップになっています。相手がよく見えるように明かりをつけるとか、その瞬間瞬間、全員がリーダーなんです。だから時には何もしない、黙っていることもリーダーシップになり得ます」
では、全員がリーダーだとすると、宇宙での緊急事態では誰が迅速な決定を下すのか。
タニは「それはコマンダーの役割」と言う。
「コマンダーは独裁者ではなくコラボレーター、そしてコーディネーターです。コマンダーはクルーの安全に全責任があります。トレーニングなどを通して、年功・経験値・技術などを基準にNASAが船長であるコマンダーを一人選びます」
リーダーシップは全員に求められるが、迅速に最終決定を下すのはコマンダーの役割であり、「リーダーシップ」と「コマンド(司令)する」ことは、概念として明確に分けられている。