実際に宇宙空間でリーダーシップを最大限に発揮できたと思うのはどんなときか。タニにそう問うと、彼は重視するのは「5秒で言える言葉」と言う。
「全員の仕事や意見が大切なのだと実感してもらえるような言葉。例えばスペースシャトルの滞在中に実験を行う際、『実験終了。次は?』と言うだけでなく、『この実験は素晴らしい。かかわることができて、本当に幸せだ。これは教授のおかげだ。素晴らしい結果を得られることを期待する』といった言葉を付け加えること。宇宙飛行士は、多くの人が関わるプロジェクトを遂行し、大勢の注目を集めます。大切なのは言い方を少し変えたり、一言付け加えたりすること。その都度、言葉を選ぶ。これはたった5秒でできることです。これがチームに最大限に貢献できることだと思っています」
タニは日系3世であり、宇宙飛行士を引退した後は2年間ほど東京のアメリカンスクールで科学技術の教師をしていた、日本とはゆかりの深い人物でもある。彼は、 「日本人はまさにNASAが好むリーダーシップに向いている」と言う。
「日本人は謙虚です。自分のやり方を押し切るのではなく、自分以上に周りの方が賢いと思い、様々なメンバーから意見を得ようとする部分は、NASAがリーダーの資質としてとても大切にしているところです。日本人は“静かで控えめ”というイメージがあるかもしれませんが、私は日本人宇宙飛行士がそうだと思ったことはありません。率直に話しますし、意見を持っている」
極限でのリーダーシップ。それは意外だが、周りを思いやることなのだ。
ダニエル・ミチオ・タニ◎米・シカゴ出身の日系アメリカ人3世。マサチューセッツ工科大学を卒業し、機械工学学士および修士号を取得。NASAで16年間勤める。2018年、米日財団のグラントディレクターに就任。