1973年、日本のカップヌードルが海を越えて発売され、共働きのアメリカ人のお母さんが、時間がないときに子供にランチで持たせるという時代もあったが、それに比べると、近年の寿司とラーメンのブームは隔世の感があった。
いまやメジャーリーグのどの球団も、在籍する日本人選手がいてもいなくても、クラブハウスには寿司などの日本食が用意されるようになった。とはいっても、寿司とラーメンは、アメリカ人に愛される日本食のほんの一部でしかない。
街には新しい店ができ、うどん、そば、焼き肉、カレーライス、焼き鳥、ギョーザ、トンカツ、しゃぶしゃぶ、串焼き、てんぷらと、そのジャンルはどんどん広がっている。
ただ、これらは外食で食べるのがほとんどだ。まだまだ普通にアメリカ人の家庭の食卓に日本食が載るところまでには至っていない。そういうこともあり、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、「のりたま」のふりかけを大きな写真入りで載せ、これが、これからのアメリカ家庭食の「Game changer」だと紹介していた。
カリフォルニアロールの秘密
消費者に押しつけるような広告戦略の結果ではなく、アメリカ市民の口コミベース、つまり実力で、そのシェアを拡大してきた日本食だが、ここまでアメリカで浸透するには、いくつかのハードルを越えなければならなかった。
まず、お箸の問題。かつては、箸袋に使い方のイラストが印刷されてあったりした。しかし、「アメリカ人は箸を使うのが苦手だろうな」という認識はもう20世紀のもの。いまどきは日本人以上に上手に使う人もまったく珍しくない。これは、日本食よりもずっと早く市民権を得ていた中華料理からの影響も大きい。
続いて、食べ慣れないことからくる「変わった味と触感」というもので、代表的なものは黒い海苔である。海苔はたくさんの日本食に使われるが、どうもあの色と触感が初めて邂逅(かいこう)する人の腰を引かせる。
カリフォルニアロールという海苔巻きは、逆輸入され、日本でも食べられるようになっているが、なぜ海苔が内側に巻かれていて白米が外側だというのは、海苔を見せないためだということはよく知られた話だ。