カメニツキー氏は、「ドキュメンタリー映画には世界を変える力がある」と心から信じて発信し続けている。
「『世界を変える』というのはちょっと大袈裟な表現かもしれないけど、つまりはスタートポイントだよね。映画を観て、心の中で何かが変わったらそれで十分。映画を観た後外を歩いてる時に、そのトピックについて考え始めたり、少し違った見方をするようになったり、価値観が変わったり……。それが変化の始まりだから。そこから人々の意見が変わって、社会が変わって、世の中が変わる。それがソーシャルインパクトになっていくんだよね」
ワークショップでMCをするカメニツキー氏
「ドキュメンタリー映画が社会を変えた例を挙げるとしたら、2013年公開の『Smejdi』(英題:『Crooks』)という作品だね。当時、チェコで高齢者向けのバスツアーが流行ってたんだけど、それは大きなホールとかに30~40名くらいの高齢者を連れて行って、色々な商品のデモを見せて高額で買わせるっていう詐欺まがいのものだったんだ。そのフェイクカンパニーのやり口を潜入取材で明らかにするっていう映画だったんだけど、この映画の監督はメディアの協力を得て、上映に合わせて大きなキャンペーンをやったんだ。そしたらこの問題はたちまち話題になって、弁護士の間でも議論になって、上映後にはそういう企業をより厳しく取り締まる法律までできたんだ。リアルタイムで社会を変えた、ものすごいインパクトのある作品だったね」
2013年公開の映画『Smejdi』(監督:Silvie Dymakova)
学生の頃は、チェコ北部の小さな町で、貧しい人やジプシーファミリーの生活・教育環境をサポートする活動をしていたというカメニツキー氏。同じ時期に『ONE WORLD FESTIVAL』のボランティアをやり始め、ふたつの活動に共通する価値に気づいたことから、本格的にドキュメンタリー映画の世界にのめり込んでいったと言う。
「人権を尊重し、教育し、積極的に人とつながる、そういう価値のすべてが両方の活動に共通してたんだ。そして社会を悲観せずにお互いを理解して、寛容な社会を作るためには教育は特に欠かせない。僕が大切だと信じてることは、すべてドキュメンタリー映画が叶えてくれるって思ったんだ。しかもそこに集まるスタッフはみんな、同じ志を持った素晴らしい仲間たち。これは僕にとっては本当に夢のような仕事なんだ」
フェスティバル最終日の授賞式
「レッドカーペットもなければビッグネームも来ない小さいフェスだけど、今年はチベットのセンゲ首相がオープニングイベントに来てくれた。国際人権映画祭としては最高のスターを招待できたと思うし、そこに参加してくれるオーディエンスこそが僕たちの一番大切なゲストだと思ってるよ。僕たちはオーディエンスのためにやってるから」
オープニングイベントに参加したチベット亡命政府のロブサン・センゲ首相
世界のどこかや誰かのストーリーに没入させ、新しい視点や今までとは違う価値観に触れさせてくれるドキュメンタリー映画。本を一冊読む代わりに、フィクション映画を一本観る代わりに、ドキュメンタリー映画を観てみると、今までとはちょっと違った世界が見えてくるかもしれない。