「ドキュメンタリー映画はエンドクレジットを見て終わりじゃない。映画を観終わった後にそのテーマについて考えたり話したりする、そのアクションこそがドキュメンタリーの醍醐味なんだ。映画のスクリーンに映っていたものは全て現実に起こっている事だからね。だから、このフェスでは映画上映の延長戦として、ワークショップやトークイベント、エキシビジョンなど、色々なプログラムや場所をアレンジしてるよ」
トークイベントの多くは、手話通訳や英語通訳が聞けるオーディオレンタルも用意され、みんなが楽しめるように工夫されている。
「例えば『Roll Red Roll』という映画は、性暴力やレイプカルチャーをテーマに描かれているんだけど、上映後には『子どもたちにSEXについてどう話す?』というワークショップをやるんだ。学校で先生が教えてくれることじゃない、両親と話すのも難しいトピックだけど、とっても大事な話だよね。じゃあそれは誰がどう子どもたちに話すべきなのか?みんなで話し合ってみようっていうアイデアだよ。そういう『タブーを破ること』、話しづらいことと向き合うことの大切さも、僕たちが伝えたい大事なメッセージのひとつなんだ」
『Roll Red Roll』のワークショップ「How to talk to Kids about SEX」
チェコ映画部門にエントリーしていた『Another Chance』のプレミア上映では、映画の主人公だった女性とその家族もディスカッションに加わった。複数の女性からお金を騙し取った結婚詐欺師の男と結婚しようとする女性のリアルを追いかけたドキュメンタリーで、妊娠が発覚した直後に、男は詐欺罪で刑務所に入り、さらにはHIVの陽性反応まで出てしまう。その後二人は一体どうなったのか……。
2年前に撮影された映画の続きの話に、聴衆はリアリティショーさながらに引き込まれ、Q&Aセッションは大いに盛り上がった。映画に登場するのが実際に存在する人物であるからこそ、その物語は彼らの人生と共に続いていく。そういうライブ感も、ドキュメンタリーが聴衆を沸かせる大きな魅力のひとつなのかもしれない。
『Another Chance』上映後のディスカッション
「何かを見た時の反応や感じることは人それぞれ。『これが事実だ。これが正解だ』というのを一方的に見せるようになってしまってはいけないよね。それはプロパガンダになってしまうから。スクリーンを通じて、自分とは違った価値観や新しいアイデアを知って、時には誰かの寛容さに触れることで、物の見方や考え方が変わる。そういう場を提供することが僕たちのフェスの目的なんだ」