週末遊牧民として過ごす──森と都市を旅して仕事するライフスタイル

我が森にキャンピングトレーラーがやってきたのは一昨年秋。台風通過直後で、ぬかるみの中、どうにか引きこんだ。

今、森にいます。八ヶ岳山麓、清里の小さな森の中に〝現代の幌馬車″キャンピングトレーラーを引き込み、週末を過ごしています。普段の仕事場は都内ですが、森はその対極かもしれません。水道電気なしの必要最小限の空間。

日々、忙しい現代人にはこんな場所が時には必要ではないかと思います。このコラムでは、僕自身が森と都会を行き来しながら、日々感じたことなどをつづっていきます。

4Rってなに?

突然ですが、「リトリート(Retreat)」という言葉をご存知ですか?

これは僕の勝手な解釈ですが、森に行くことは一つのリトリートだと思っています。最初にこの言葉を知ったのはもう10年前、ある禅僧が書いた本からでした。いろいろな訳し方や解釈がありますが、隠居、隠れ家、引き籠るなどの意味のほか、広い意味では禅体験に近い意味で使われていることもあります。実際、一般を対象にリトリート体験を行っている寺院も少なからずあります。

いずれにせよ共通しているのは、日常を一時的に離れ、自分自身を見つめなおす時間と空間に身を置くということ。日常と境界線を持つことのようです。最近ストレス対応には「4R」が必要とよく言われるようになりました。

1. Rest(レスト) 肉体の疲れをとる「休憩」。
2. Recreation(レクレーション) スポーツや遊び、ゲームなど通して楽しい時間を持つこと。
3. Relaxation(リラクゼーション) 心身の緊張を緩め、副交感神経と交感神経のバランスをとること。

そして、4つめがRetreat(リトリート)。

ストレス源から距離をおくことだと言います。いろんなことが立て込んでくると、「あぁ、森に行きたい」と僕はすぐに思ってしまいますが、これは本能的にストレス源から離れたいという欲求なのかもしれません。人によっては「森」でなく「旅」かもしれません。現代人の多くは、潜在的にこのリトリートを常に欲している気がします。欧米を発端にした自然回帰の流れは確実に日本にも根づこうとしています。

禅僧ティク・ナット・ハンはこんなことを言っています。

「多くの人たちが『ただ座っているだけでなく、何かをしなさい』と言います。しかし、いっそう多くのことをすることによって、状況をいっそう悪化させるかもしれません。そこで、『ただ何かをしているだけでなく、静かに座りなさい』と言う方が適切かもしれません」

何もしない。ただ静かに座る。

これこそ、究極のリトリート、あるいは現代版の瞑想であるかもしれません。キャンピングトレーラーの中でゆっくりコーヒーを淹れ、窓から森を眺めながら、ただひとり静かに座る。その瞬間、都会で張りつめていた心が、ふっとほどけていく感覚を僕は味わいます。


濃いめのコーヒーを淹れ、あとは何もしない午後のひと時。
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文・写真=小林キユウ

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