香りのイメージは他の感覚器官よりも奥行きを感じさせる。沈丁花は季節の思い出を呼び起こし、また、久しぶりに実家に帰った時の優しく迎えてくれる懐かしいにおいは癒しとなり、お付き合いしていた人がまとっていた香りは、思い出のフィルムが自動的に脳内再生されるというように。
第一印象を決定付ける「あなた」の香り
香りをまとうことはその人を表現することでもある。日本の香水市場を長く牽引してきたブルーベル・ジャパン 香水・化粧品事業本部のPR担当佐藤昌枝(以下佐藤)に聞いた。
「香りは本能に直接訴えかけてきます。特に海外では男性でも自己アピールの手段のひとつで、あるポジションに登ればそのポジションやシチュエーションにあわせて香水を変えています」
中高年世代は、“男子たるもの”の発想なのか、香水と相当の距離を置き、だからこそいざたしなむと大きく失敗することもある。
「若い世代はすでに性別を問わず香りのハードルが低くなっています。私たちがよく話しているのは『香りで魅力が3割増し』ということ。例えば頼りがいのある雰囲気、印象を和らげたい、というように香水で自分の印象をコントロールすることも可能なんです」
そのためにも男性の場合はまず製品について知ることが大切だ。
よく聞く言葉に「ノート」がある。トップノートは最初に香る印象、時間経過とともに、ミドル、ラストと3段階で香りは変わることくらいは知っておくべきだろう。
「トップノートはあなたという人物を印象づけるファーストインプレッションです。フルーツ系などの軽やかな香りは、親しみやすい印象を与えます。そしてフレグランスのコアな部分としてミドルノートへと続くのです」
基本的に香りは時間とともにまろやかになっていく。だんだん肌になじんでいき、香料の種類や質、そのバランスで変化の仕方は変わってくる。そこで重要なのがフレグランスのイメージとなる香りの種類だ。
押さえるべき「基本香調」とは何か
男性用の香調(ノート)は大きく3つある。「フゼア」「シプレ」「オリエンタル」(初耳だろうか?筆者は恥ずかしながらもちろん、初耳だ)。フゼアはメンズ製品の中で最も多い系統の香りで、空気をはらんだようなエアリーさ、クリーンな印象を与えるものが多い。フゼアはもともと「シダ」の仏語だが、シダが必ず入っているわけではなく、むしろオークモスをベースにしたラベンダーのニュアンスが多いという。有名なのはランバンの「プールオム」だ。
そしてシブレはシトラス系の香りを指す。多くの人が知っているカルバン クラインの「ck1」はシプレだ。今でも人気の上位にくる軽くて爽やかな印象を持つ。そして、オリエンタルはエキゾチックな香りで、スパイシーさと甘い香りからセクシーなイメージをもたらす。クリスチャン・ディオールの「ファーレンハイト」などがそうだ。
基本的にはこの3つの柱があって、際立たせる香料のバランスによって香調が決まってくる。通常、香水は50種類以上の香料が入っているため、フゼアでもバランスによってはオリエンタルに近いウッディーな印象にもなる。また、よく聞くであろう「パルファム」「オーデパルファム」「オーデトワレ」「オーデコロン」という芳香の「濃度」の違いなどからも、香りの印象が変わってくる。この並び順に香りはエアリーに軽くなり、持続時間も短くなってくる。
ここに上述の時間経過による「ノート」が関わってくるから少し複雑にも感じるが、知識をもって店鋪で試してみると驚くほど香りの違いが分かってくるから不思議である。