香水を作り出したのは、IBM基礎研究所とドイツに本拠を置く香料メーカーのシムライズ(Symrise)だ。シムライズはエスティ ローダー、コティ、ヴィクトリアズ・シークレットの親会社エル・ブランドなどの香水を製造していることで知られる。
両社が開発したAI「Philyra」は、シムライズが持つ170万種類もの香水の処方を学習し、需要はあるが、これまで試されたことのない香料の組み合わせを提案する。
シムライズの上級調香師のデヴィッド・アペルによると、12年前に作られた特定の香水を「最もクリエイティブに」再解釈するよう指示したケースでは、Philyraは流行遅れになった香料1種類を取り除いて現在人気の高いサンダルウッドを増量し、さらにシダーウッドを組み合わせた処方を生み出したという。
人工知能を用いた調香は、19世紀に合成香料が出てきた時以来のイノベーションだとアペルは語る。
「これまでは1種類の香水を作り出すのに半年から4年かかっていた。それが(AIを使えば)あっという間だ。驚くべきことに、AIは次から次へと新しい試みを繰り出すばかりか、香水のあるべき姿を自身で判断することができる。そして我々に斬新なアイデアをもたらしてくれる」
人間の調香師は仕事がなくなる?
オ・ボチカリオから発売される予定の香水は、ミレニアル世代を対象とした2種類。Philyraが若者のトレンドに沿って提示した数々の選択肢の中から、アペルのチームが2種類を選んだ。そのうちのひとつはミルクとバターをベースに、カルダモンとフェヌグリークを組み合わせたような香りだ。
「自分では思いもつかない原料の組み合わせだ」とアペルは言う。
シムライズのグローバル・プレジデントを務めるアキーム・ドーブは、オ・ボチカリオの他にも多くのブランドがAIによる香水の開発を「検討している」と話す。「(クライアントが増えることで)さらに新しいクリエーションが生まれるだろう」
今後、AIは人間の調香師に取って代わるのだろうか? IBM基礎研究所のリチャード・グッドウィンは「香水作りはアートだ。アーティストの数だけやり方がある」と言い、その可能性を否定する。
「AIは調香師の助手のようなもの。過去の例を学習し、どのような配合が成功したか、どの地域でどんな香りが売れるかなどを調べる。これまで空白だったところに需要があれば、それを調香師に提示する。調香師の専門知識は不可欠だ」