社員がどれだけブレストしても出てこなかったアイデア
優勝チームの「仕送りで製品を贈る」というアイデアには正直、驚いたという。「まずは大学生に向けて使ってもらおう、そこに親からの仕送りを掛け合わせるというのは、P&Gジャパンの社員がどれだけブレストしても出てこなかったであろうアイデアでした。『仕送り』マーケットは、お中元、お歳暮に続く、eコマースの新しい切り口になり得るかもしれない。潜在的に大きな可能性を感じましたね」
優勝チームのメンバーに話を聞いた。中学・高校の友人や大学の同期で構成、マーケティングに興味のあるメンバー4人が集まった。
「純粋に嬉しかった。今回のチームメンバーがよかったと思います」と話すのはリーダーの由衛だ。インサイト(消費者の隠れた購買意欲の核心)を探るのに、8割の時間を費やしたという。
「恋、就活、体育会やスポーツサークルがらみ、街コン……。思いつきそうなネタは大体全部検討しましたが、不確実性が高いものは全てボツにしました。ファクトベースで最も実行可能性が高いと考えたのが『モノで仕送りをする』という今回のアイデアです」
「最初は新入生をゲットする方向性で考えていましたが、今回目指している購入目標数を検証したときに、他の学年もターゲットにし、継続的に購入してもらえる方法を検討しました。『購入者自体は学生でなくても良いでしょうか』と事前にP&Gさんに確認しました」
プロのマーケターからの助言、勉強になった
検討の過程で、改めてマーケティングの面白さと難しさに気づいた。「一つの商品について、社会の動きやトレンドに合わせて様々な角度から考えて、新たな切り口を生み出し続けないといけない。プロのマーケターの方々からフレームワークや助言をいただき、勉強になりました。こうなったら、自分たちのアイデアやプランを毎年P&Gさんに実行してもらえるまでブラッシュアップしたい」
メンバーの草山はコンテストの意義を語った。「予算をつけて、たくさんの人が動いてくださって、貴重な経験になりました。アイデアを出す段階だけでなく、実現できるところまで体験でき、視野が広がりました」。
依田は、「実施まで担うことで、『中途半端な施策は世の中に出せないな』と責任感を持って進めることができました。大学に入ってから将来を考える人も多いと思いますが、企業の中に入ってこのような経験がもっとできれば、学生の選択肢がもっと広がると思います」と話す。
竹内は「リクルーティング目的でなく、企業がキャリア教育の一環として、このような機会を設けていることに意味があると思います。自分の将来を具体的に考えるきっかけになりました」と語った。
また、ベスト4に進んだ大学2年生チームからは、このような感想が寄せられた。
「今回のビジネスコンテストでは単に立案するだけではなく、実行することまで見据えた案を考えなければならなかったので、実現可能性やコストを考える必要がありました。しかしそこに囚われすぎてしまい、結果として新規性に欠ける案になってしまったと思います。かといって斬新なアイデアを出しても実現可能性は低くなってしまうので、企画を立案し実行する過程において、現状分析とアイデア出しのどちらも非常に重要であると感じました」
彼らの案はこうだ。各大学が学生向けに発行しているフリーペーパーを用いて商品を紹介、購買に繋げるため商品に「新生活おみくじ」のQRコードを貼り、成果に応じてアマゾンのギフト券やLINEポイントなどがもらえるというキャンペーンである。
「評価される案は、決して一人では生まれない」チームワークの大切さ実感
2年生チームは今回の経験で、ビジネスにおけるチームワークの大切さを実感したという。
「評価される案というのは決して1人からは生まれないということがわかりました。常に顧客目線を意識できる人、コスト計算など数字的な部分に優れている人、合理的な思考ができる人、など各人が長けている部分を存分に発揮でき、その結果ベスト4まで行くことができたのだと思います。これは実際のビジネスにおいても同じだと思うので、学生のうちにこのような経験ができたのは非常に貴重だったと思います」
リクルーティング目的に留まらず、学生へのキャリア教育やビジネスの実践教育と、若くフレッシュなアイデアの獲得を両立させた今回の枠組みは、学生と企業双方にメリットの大きい事例として、他企業にも応用の余地がありそうだ。