「グローバル思考」の伸ばし方

Creative Destruction Lab創設者/トロント大学のアジェイ・アグラワル教授(本人提供)

人生100年時代と言われる今、新卒で就職した企業や職種でキャリアを終える人は、今後ますます少なくなるでしょう。私が情報工学で修士号を取得した1996年には、その20年後に、自分がエンジニアではなく、医療や消費財などの業界で事業開発の仕事をするとは思ってもいませんでした。

偶然も作用していると思いますが、私自身は、社会の「何が変わるのか」「それによってどのマーケットが成長するのか」「自分はどのように社会に貢献したいか」を意識しながら、キャリアをシフトしてきました。いわば時代を読みながらキャリアを転換するというのは、変化の激しい現代において重要なことではないでしょうか。

今回は、その先読みを見事に行い、経済学者からAIの世界へ転換したアジェイ・アグラワル教授の話から、キャリアシフトについて考えてみたいと思います。

政府の会合を断り、自分で動き出す

カナダのトロントは、AI研究の最前線として、近年注目を集めている都市。ディープラーニングの研究で有名なトロント大学をはじめ、大企業のAI研究所、AI関連のスタートアップが数多く存在し、現在グーグル、フェイスブック、アップルなど各社でAI研究をリードする優れた人材を輩出しています。

そのトロントで、スタートアップを支援するAIビジネス創出プログラム「創造的破壊ラボ(Creative Destruction Lab、CDL)」を創設したのが、トロント大学のアジェイ・アグラワル教授です。

彼は、CDLを運営しながら、IT戦略や科学政策、企業ファイナンスやイノベーションの地理的条件に関する研究を行っています。また、AI・ロボティクスの開発を行うキンドレッド社などのベンチャー企業の共同創業者でもあります。

アグラワル教授が共著で刊行した「予測マシンの世紀」(日本語訳は2019年2月出版)は、WIRED創刊編集長のケヴィン・ケリー氏やグーグル チーフ・エコノミストのハル・ヴァリアン氏、元米国務長官のローレンス・サマーズ氏など、世界トップクラスの頭脳が絶賛。AI業界で“アグラワル”の名前を知らない人はいないほどです。

とはいえ、ほんの数年前までは、今ほど有名ではありませんでした。もともとが経済学者である教授は、当時、「カナダは科学の基礎研究では優れているにもかかわらず、大きな産業を育てられていない」ことを懸念し、カナダ政府が主催するラウンドテーブルやディスカッションに頻繁によばれては、大きなビジョンを提示したり政策提言をしたりしていました。

しかし、何年経ってもカナダ政府が変わることはなく、悩んだ末、2010年に一大決心をします。「もう二度と政府主導の席には出ない。小さくてもいい、自分の手でリアルに何かをつくり出すことをしよう」と。

その日を境に、教授は政府関係の会合はすべて断り、CDLの設立に向けて動き出しましす。まず、ポケットマネーで1人30万カナダドル(約2500万円)を出資してくれるカナダ出身の起業家10人を探すところからスタート。そのうち5人は彼のことをよく知る友人で、アイデアに賛同して出資し、残りの5人はその知人たちからの紹介だそうです。

この300万カナダドルと、一般企業からの投資金100万カナダドルを元手に、2012年に「Build Something Massive(大規模な何かをつくり出す)」をミッションに掲げ、CDLを設立。第1ラウンドの25社に対して支援プログラムを実施しました。この時は、物理、生物、ITなど様々な領域のスタートアップを対象としたそうです。

文=秋山ゆかり

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