ビジネス界を自ら啓発して教育する
第二の転機は、2015年に訪れました。2ラウンド目のプログラムで50社を対象にしようと考えたときに、AIのスタートアップにフォーカスすることに決めたのです。まだAIビジネスがメジャーになる前で、投資家からは「AIに絞ったら50社も集まらない」「AIは時期尚早な分野だ」など反対意見も多く出たそうです。
しかし、アグラワル教授は、これからは、製造、流通、マーケティング、人事、金融……あらゆるビジネス領域にAIが組み込まれるようになる。そして、「AIによって安いコストで予測ができるようになり、それが意思決定プロセスに大きく関係し、ビジネスに本質的な変化をもたらす」とその将来性を確信していました。
投資家の説得にかかるだけでなく、「AIがどれだけビジネスにとって有益か、自分たちがビジネス界を啓発し教育しよう」と、2015年、テスラのプロジェクト・ディレクターを務めるシボーン・ジリス氏と共にAIビジネスに特化した会議「Machine Learning and Market For Intelligence Conference」を開催。今年5回目を迎えています。
このように、ビジネス・コミュニティに対して、積極的に「なぜ自分たちがAIを選択するのか?」ということを発信していくうちに、AIに特化する彼らの姿勢を応援してくれる人が増えていったといいます。
そうして無事に第2ラウンドを終えると、CDLは、2017年の秋には、AI関連のスタートアップ企業が世界で最も多く集まるプログラムとしてグローバルに知られるようになりました。同時に、アグラワル教授自身の知名度も上がり、今では世界各地から講演のオファーが来るAI界の重要人物の1人となりました。
自らの確信を信じて突き進む
アグラワル教授はAIについて、与えられた大量のデータをもとに予測をする能力がカギで、「AIにより予測のコストが下がると、人間を厄介な予測作業から解放するだけでなく、意思決定の質も改善し、ひいては組織や戦略を変えていく」としています。
また教授は、その予想図をビジョンとして唱えるだけでなく、CDLやベンチャー企業など、自らの手で実際に成果をあげるものをつくり出して、自身の主張が正しいことを証明していきました。ビジョンを描き、実践することで、自らのキャリアまで大きく変化させてきたのです。
「起きている物事の本質を考えることが大事だ」という教授の言葉を借りるとすると、キャリアにおいては、「次にくるもの」に関してある確信が得られたとき、冷静な判断で物事の本質を見極めつつ、自分の確信を信じて突き進むことで道は拓けるのかもしれません。
前述した彼の著書「予測マシンの世紀」は、就職して間もない若いビジネスマンから熟練のビジネスリーダーまで、幅広い立場の人にとって、AIがもたらす社会および経済変革の意味は何かを解き明かしてくれます。一読されてはいかがでしょう。
連載 : 「グローバル思考」の伸ばし方
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