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2019.03.17 16:30

ナパの高級ワイン、プロモントリーが親子で繋ぐストーリー

プロモントリーを手がけるウィル・ハーラン氏

サンフランシスコから1時間くらい車を走らせると、ナパ・バレーの南端に到着する。そこから幹線道路29号線を北上し、ナパの中心地オークヴィルに着いたら、西方向の横道に入る。平地のブドウ畑を過ぎて、細い山道をしばらく上ると「プロモントリー」というワイナリーの入口がある。周りには他のワイナリーもない、隔離された静かな場所だ。

ピンポンを鳴らし、ガッチリとした扉を抜けると、そこにはモダンでスタイリッシュな空間が広がる。山の中腹にあるので、ワイナリーからはブドウ畑が一面に見渡せる。その景色に目を奪われていると、ウェルカムのシャンパーニュ、ドン ペリニヨンが提供される。最高のおもてなしだ。



カリフォルニア随一の高級ワイン産地といえば、ナパ・バレー。その地の成功者の一人と言えるのが、一代で自身のワインブランドをカルト的なステイタスに成長させた「ハーラン・エステート」(Harlan Estate)の創業者、ビル・ハーランだ。

当初から「200年計画」と称した長期的なビジョンを持つハーランは、将来何世代にもわたって、カリフォルニアの地で、ボルドーの1級シャトーのようなワインブランドを築き上げることを目標に掲げている。そのために、それに見合った土地を探し出し、最高のスタッフを迎えて、最新の醸造施設でワインを造り、ゼロからブランドを構築した。

現在、その壮大な計画は息子のウィル・ハーランに引き継がれ、ハーラン・グループとして、ハーラン・エステートのほか、単一畑の表現に焦点を当てたワイナリー「ボンド」、三ツ星レストランを擁する「メドウッド・ホテル」を運営する。そして、ウィルが直接指揮を執るのが、グループ内で一番新しいブランドである「プロモントリー」だ。

手付かずの土地との出会い

プロモントリーの始まりは、ハーラン・エステートが軌道に乗る前の1984年まで遡る。父のビルがハイキングをしていたときに、ナパの中心地から隔離された、山の中の土地に出会った。手付かずのパワーあふれる土地に強く惹かれたものの、購入の資金もなければ、その土地のポテンシャルもわからず、いったんは諦めた。

それから二十数年が経ち、再度チャンスが巡ってきた。その土地が売却されるというのだ。スタンフォード大学の地質学者と一緒に土地を調べ、ナパでよく見られる火山性と堆積土壌に加えて、変成岩という他では見られない独特の土壌が入り組んだ場所であることがわかった。未知数ではあったが、もしかすると唯一無二の場所で、大きな可能性を秘めていると考え、直感を信じて購入した。

この土地は、840エーカーと広大だが、急勾配なエリアが多く、10%程度しかブドウ畑として開墾されていない。標高が高いため、ナパの平地のブドウ畑より冷涼な気候だ。また、ダイナミックな地勢により、様々な微小気候が作り出されているが、冷涼な空気が流れ込む場所でもある。自然のままの状態で、夜には、監視カメラに様々な野生動物が録画されるという。


山の中にあるプロモントリーの畑

このように未開発の土地だが、ブドウ畑は、手入れが行き届いて美しい。多様な生態を尊重し、除草剤などの化学農薬は使用せず、オーガニックやビオディナミ栽培を基礎に、福岡正信の自然農法の理念を取り入れている。彼らにとって、これらの農法は良質なブドウを育てるためであり、「ビオディナミ」や「オーガニック」を謳う宣伝のためではない。
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文・写真=島悠里

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