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2019.03.14 07:15

新たな客を獲得しながら価値を生み出す ロンドンと燕三条の「二都物語」

ジャパン・ハウス ロンドン

ジャパン・ハウス ロンドン

地域の技術に海外の視点をかけ合わせ、新たな価値を生み出す。意外な二都をつなぐ物語から見えてきたのは、地域産業の進化形だった。


2018年9月から10月にかけて、ロンドンで実験的な展示会が開かれた。金属加工の町として知られる新潟県燕市と三条市から連日さまざまな職人たちが招かれては実演を行う「燕三条展」だ。高級感のあるケンジントンストリートに日本政府がオープンさせた「ジャパン・ハウス ロンドン」がその舞台である。

10月、大勢の客で賑わうジャパン・ハウスを訪ねると、企画の中心人物であるサイモン・ライト企画局長が「想定外のお客さんが来た」と言う。それは、田斎鑿製作所の講演でのことだ。

三条市の名工・田斎親子は、「のみ」「かんな」などの特殊刃物をつくっており、大工が使う多種多様な「のみ」が展示された。田斎に会うために、「バイクで5時間かけてやってきた」という家具職人などに混じり、2日間、熱心に通う二人組がいた。インペリアル・カレッジ・ロンドンの医学部教授である。

ノーベル賞受賞者を15人輩出している同大学は、世界トップレベルの理系大学である。外科医である男女二人の教授は田斎に質問を続け、女医は3時間以上も田斎と話し合ったという。のみと医者の意外な組み合わせだが、前出のライト局長によると、「外科医として、骨を削る観点から意見を求めていました」と言う。

さらに教授は削る際の「手の感覚」を研究していると言い、「何かコラボレーションができませんか」と提案したという。

この予想外の展開こそ、ジャパン・ハウスのコンセプトである。地方の技術に海外の視点をかけ合わせれば、新たな進化を起こせるのではないか、というものだ。もともと燕三条の技術は、欧米では信用を得ている。


客の関心に応えるため、商品の「文脈」を重視。各商品の脇に日本地図を置き、なぜつくられたか、地域性や素材、伝えるべきストーリーを紹介。

例えば、ジャパン・ハウスに展示された三条製作所の和剃刀は、海外で人気が高く、「注文しても3年待ち」と言われる。和剃刀の職人、水落良市の話を聞くため、理容師から全身に入れ墨をいれたナイフマニアまで、多くの愛好家が駆けつけた。

また、海外で人気が高い諏訪田製作所の喰切型高級爪切りはプロ仕様だが、ネイルサロンだけでなく、個人からの注文も多い。あるいは黒檀加工の技術を活かしたマルナオの箸は、「ミラノ・サローネ」やパリの「メゾン・エ・オブジェ」に出展した実績があり、やはり人気がある。

有名なのが、スティーブ・ジョブズが依頼したiPodだろう。燕市は金属研磨で知られ、「鏡面磨き」の技術でiPodのピカピカの裏面を仕上げていった。

燕三条展を提案したサイモン・ライトは、過去に鹿児島県で高校教師をした経験をもつ学芸員である。彼は日本全国の地域をまわりながら、燕三条に注目していった。筆者は昨年3月にライトとともに三条市を訪ね、なぜここに注目するのかと聞くと、彼は「機能美」と答えた。

「燕三条の製品には機能美があります。人間の生活に根ざした機能美であり、暮らしが見えてくる。ステレオタイプではない、本当の日本であり、この機能美をイギリス人の生活に浸透させられたらと思いました」

そこから目指す次のステップが、別次元の発想とのかけ合わせである。19世紀に欧州で「ジャポニスム」が大流行したことがある。日本の美術工芸品が装飾の概念を変えるのだが、なかでも着物は独自の発展を遂げた。和服は「ティーガウン」として一世を風靡し、「キモノジャケット」などローカライズされていった。
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文=藤吉雅春 イラストレーション=アルベルト・アントニアッツィ

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