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2019.03.04 10:00

ディズニーやNASAも認めた、型破りな「京都の試作屋」が世界に求められる理由

ヒルトップアメリカ現地法人CEO 山本勇輝

ヒルトップアメリカ現地法人CEO 山本勇輝

規模ではなく、価値の大きさで知られざる企業を探そう──。

Forbes JAPAN2019年3月号(1月25日発売)の特集「スモール・ジャイアンツ2019」で、アワードの投票を経てグランプリを受賞したのは京都・宇治市のアルミ加工メーカーのヒルトップ。「24時間無人稼働」の工場を軸にした独自の生産管理システムで時代の最先端を走る。その一方で取材班は、昔ながらの町工場のような一角も目にした。「京都の試作屋」が世界に求められる真の理由とは。


まずは、以下の2枚の写真の違いにお気づきだろうか。京都府宇治市のヒルトップ本社。無人の工場と、足を踏み入れると「こんにちは!」と元気な声が飛んでくる3階。対照的な2枚の写真に「スモール・ジャイアンツ2019」のグランプリをとったヒルトップの強さの秘密がある。


5軸加工機など最新機器が並ぶ本社工場

 
工場の3階で働くチームは若手からベテランまで約20人で構成する

2階の大きなガラス越しに見下ろした工場は、巨大な工作機械が10台稼働中にもかかわらず、人の姿が見えない。ここは「機械ができることは機械に」を徹底的に極めたフロアである。

「工場って普通は緑色とか目に優しい色を使うんです。でもうちの場合、機械はピンクだったり、柱もカラフル。人が機械に張り付いて仕事をする必要がないから、せっかくなら製造業の工場のイメージを少しでも明るくしようと思って」。案内役を買って出たアメリカ現地法人CEO山本勇輝が、そうにこやかに説明してくれた。

稼働音が響く工場に入ると、コーポレートカラーであるピンク色の工作機械が目を引いた。ハイエンドな「5軸加工機」だ。多面体のアルミを全方向から加工する場合、通常の2軸、3軸の加工機であればいったん機械を止め、加工したい方向にセットし直し、刃の付け替え作業が必要となるが、5軸であればワンショットで行える。複雑な形状の部品であっても、人の手を介さずに加工できるのだ。

一般的に5軸加工機は高価で扱いが難しいため、国内では中小企業での導入例は珍しい。だが、同社では約35年かけて、職人技だった加工技術を完全にデータ化し、独自の「ヒルトップ・システム」を開発。新入社員でもたった1カ月でプログラミングを習得し、約60人の製造部員のほぼ全員が5軸加工機を使いこなせるようになった。

こうして、高精度な部品を「24時間無人加工で、最短3日で単品納入」できる独自のビジネスモデルを確立した。

かつては油にまみれた孫請けの鉄工所だったヒルトップ。しかし、いまではNASAやウーバーテクノロジーズを始め、月に4000種もの試作部品を製造する。医療機器、精密機械、航空機部品、あるいは大物ミュージシャンのマイクスタンドまで「一点モノ」を得意とする。量産前に機能性などを検証するために、彼らのイメージを形にしているのだ。

さらに表面加工を含む後工程を内製化することで、全体的なリードタイムを短くしている。この鍵となるのが、昔ながらの町工場のような風景が広がる3階の存在だ。旧式の工作機械が並び、社員たちが手作業をしている。ここは「人がするべきこと」を追求する教育の場という。

「手で加工する感覚を覚える場です。削る際の注意点、刃を扱う怖さは経験しないとわからないし、人の技術も学ばないとバーチャルのみの世界になってしまう。アイデアや発想って、現実感がないとなかなか生まれませんからね。工場見学される方でも『ここはけっこう重要な場所ですね』と気づく人がいます」

取材中もスーツ姿の集団がひっきりなしに訪れた。聞けば1年で2000人が社内見学に来るという。無人化と、職人技へのこだわり。一見すると対極的な二つに、視察する者も目を奪われる。しかし、この会社の凄みを知ったのは、世界に注目されるまでに至る道のりを聞いたときだ。自力で自らの業態をトランスフォーメーションし、会社の形を変え続けているのだ。
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文=堀香織、督あかり 写真=アーウィン・ウォン

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