ビジネス

2019.03.04 10:00

ディズニーやNASAも認めた、型破りな「京都の試作屋」が世界に求められる理由

ヒルトップアメリカ現地法人CEO 山本勇輝


 
「スモール・ジャイアンツアワード2019」でグランプリの受賞スピーチをする山本勇輝 撮影・岩沢蘭
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アメリカ進出の勝算

山本は現在、京都本社の経営戦略部長と、アメリカ現地法人のCEOを兼任している。送り出したのは、父・昌作だ。12年5月、昌作は本社4階にある食堂のテラス席に息子を呼んだ。「アメリカに進出しようと思うんやけど、お前行くか」「あ、それなら行きましょか」とほんの5分ぐらいで決まった。十数年前、シリコンバレーを訪れた父が「いつかここで事業をやりたい」と願った理由は、「空が青いから」。穏やかな気候に魅力を感じた。

ヒルトップ・システムで結果を出し、機は熟していた。だが、2億円の出資金こそあるものの、コネもツテもない。山本はシリコンバレーに渡りマーケティングを行ったが、カリフォルニアは北と南では文化が違う。そこで、手っ取り早く展示会への出展を決めた。13年2月のことだ。ブース設置には500万円を投資。ディズニーの社員を含む約300名と名刺交換をした。

「ユーザーと話した感触、引き合いの多さから自信をつけました。そのときはまだオフィスはなかったけれど、つくる予定だと言い切って」
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5月20日に法人登記し、10月にはアーバインにオフィスを設置。名刺交換の相手に、翌年2月の展示会の案内を出した。

「2度目の展示会にはディズニーに来てもらえなかったんです。でも3月に『オフィスはできたか』と連絡があって、できましたと答えたら『じゃあ、発注かけていいか』と」

こうして顧客ゼロからスタートしたアメリカ進出はディズニーの初受注で幕を開け、同年は約40社、翌年は185社と順調に取引先を増やし、18年は800社超えで終えた。取引額は540万ドル(6億円前後)だ。

「実は、最初からアメリカ進出は勝ちゲームだと思っていました」。後出しジャンケンでもなく、驕りでもない。父からの提案をあっさりと引き受けた山本はこう分析していた。

第一に、アメリカでは効率性を求めて多くの工程を外部委託し、コア技術のみを磨く企業が多い。だが、一般的に利益の少ない「試作」を受ける企業は少ない。第二に、ヒルトップと同様の「試作屋」は、中国やベトナム、タイなどの企業がすでに進出していたが、日本企業の進出例は見当たらなかった。ヒルトップ・システムによる「品質と短期納入型のビジネスで勝てる」と突破した。現地法人のオフィスと工場には、アメリカ人を多く雇用することで、現地での信頼度を高めた。

「アメリカ進出は、僕と副社長の間では事業承継なんです。一般的には何年間か専務職などに就いて経営を学んだ後、社長に就任するというケースが多いと思いますが、弊社の場合は父が『出資するから、会社を設立して、一から事業化しなさい』と僕に託した。つまり、投資家とベンチャーという関係性でスタートしました」。最初に父から投げ掛けられた言葉は、意外なものだった。

「いまある事業を守ることだけはやめてくれ」

山本の次なるアイデアは、さらに先を行く。現在は社内のみで展開している部品加工技術のアプリケーションを使用し、課金モデルでベンチャーなどに機械を貸す世界展開の事業だ。「誰もが明日から試作屋になれる」ように技術的なサポートをするのだ。

「例えばインドは、ITのエンジニアは強いけれど、ものづくりの能力があまりに低く、なかなか産業化していかない。そこで、インドの工作メーカーと連携しながら、プログラムの力でジャパンクオリティーに引き上げられる。政府とも協力できたら一つの産業が生まれるのではないか」と推測する。多くの企業を巻き込み、ものづくりのレベルを引き上げ、業界を変えて行こうという狙いもある。

自社の強みであるコア技術を途切れないように守りながら拡張させ、企業形態を自在に変容していくヒルトップ。この「トランスフォーメーション力」こそが、AI時代を突破する鍵となり、世界に喜ばれる事業を展開していくのだろう。

文=堀香織、督あかり 写真=アーウィン・ウォン

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