そんな急成長を裏で支えた立役者が、日本オフィスにいる。ビジネス・デベロップメントのディレクター・下井昌人氏だ。
まだ世界的な知名度がない時代。海外進出するために彼らが見出したのは、「各国の大手メーカーとパートナーシップを結び、協働して顧客にリーチし獲得を目指す」という戦略だった。2015年の日本展開、そして上陸から順調に市場拡大を進めている現在に至るまで、ネットフリックスのパートナーとの取り組みは、どのように進化していったのか?
下井氏に話を聞いた。
「最高の映像体験」を日本に
グローバルにおいて、日本は「課金型映像コンテンツ」の後進国といえる。たとえば、アメリカは約1億世帯の中で、契約率は約9割を誇り、優良コンテンツに課金する文化が根づいている。一方で日本は「課金型映像コンテンツ」契約世帯は1300万世帯にとどまる。しかも、直近10年でほとんど変化していない。
下井氏は、ネットフリックスのストリーミング配信事業が始まった直後の2008年に入社。当時の状況を「ストリーミング配信自体が、そこまで認知されていなかったことに加え、以前は宅配DVDレンタル事業をやっていたので、パートナー企業を訪問しても『宅配DVD屋さんが何の用ですか?』と言われましたね」と振り返る。
国内でたった一人で始めて風当たりも強い中、下井氏は地道な交渉を重ね、大手メーカーとのパートナーシップを推進、Xbox 360、ブルーレイディスクプレーヤー、PS3、インターネット接続テレビ、などでの配信を可能にした。ネットフリックスのカナダ、中南米、ヨーロッパ地域での展開をサポートした後、2015年からは日本展開に合わせ、多種多様なメーカーや国内ブランドとのパートナーシップを推し進めている。
日本はモバイル視聴のニーズが高いことも特徴だ。特に若年層は一人暮らしで、電車で通勤する場合がほとんど。モバイル視聴型のコンテンツは、この特徴的なライフスタイルにフィットするのだ。
たとえば、ユーザーが視聴登録をしたデバイスと、6ヶ月後に実際に視聴するデバイスを比較した統計がある。グローバルのトレンドにおいては、登録時はモバイル(モバイルが41%、テレビが23%)中心である一方、6ヶ月後には大型のテレビで観たいという需要が高まる(テレビが64%)のが通例だ。(2018年8月時点)
しかし、日本では、登録はモバイルが過半を超えるだけでなく、6ヶ月後もグローバルの倍の割合で、モバイルで視聴を続ける傾向がある。
そのマーケット特性に鑑み、日本上陸時に最初にパートナーシップ契約を結んだのは、大手通信キャリアのソフトバンクだった。全国5000店舗のオフラインチャネルを手にしたことで、従来のオンラインにおける販促ではアプローチできなかった、新規顧客層の開拓に成功した。
また最近では、現在も続くソフトバンクとのパートナーシップに加え、2018年8月よりKDDIと「auフラットプラン25 Netflixパック」という料金プランを新設。日本初の「通信プラン」という形で、通信・エンターテイメントを融合したサービス提供を開始した。
業界のゲームチェンジャーとして、地位を確立するまで
日本に進出した当初から、名だたる国内大手通信キャリアと手を結んできたネットフリックス。その理由を、下井氏に尋ねた。
「ネットフリックスのミッションは、『最高の視聴体験』をユーザーに届けること。この実現のために、業界のあるべき未来を見据えて、ビジョンを共有できる多様な企業とイノベーションを生み出すべく、パートナーシップを結んでいます」