問題提起するのは、漫才に時事ネタを取り入れ、ツイッターで社会問題にも言及するお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔だ。
彼が感じる、日本のお笑いの課題とは。そして、そもそも本当にお笑い芸人が社会問題を語るべきなのか?
自身もトランスジェンダーで、昨年15万人を動員した日本最大のLGBTプライドパレードを運営するNPO法人・東京レインボープライドの共同代表理事を務める杉山文野との対談連載、最終回。(第1回 / 第2回)
日本の芸人は主張したいことをもっていない
村本:この前、漫才の中で「ハンセン病」というワードを出したんです。現場ではほとんどの人にポカンとされたのですが、あとでSNSに熊本出身の人から「よく言ってくれました」とメッセージが来たんですよ。
障害者の性やダウン症など、漫才・バラエティには普段持ち込まれない言葉がたくさんあります。それは芸人たちに知識がないことや、誤解されることを恐れているのが原因だと思っています。
でも、本当にこういった言葉をコメディに持ち込んだらいけないのでしょうか。実際、海外では中絶について30分も語り続けて、笑いを取る芸人がいるんですよ。中絶の問題点をロジックで示しながらも、面白がってもらえる文化がある。
杉山:日本と海外では、お笑いに対するスタンスが違う気がします。原因は何なのでしょう。
村本:同じお笑いでも、日本と海外では根本的に定義が違うと感じます。日本では、ミュージシャンや小説家は「アーティスト」だと思われているのに、お笑い芸人はその中に含まれません。
海外ではお笑い芸人がアーティストだと自称しても、スッと受け入れられる。彼らは自分の主張したいことをネタとして表現しているからです。
例えば、クリス・ロックという黒人の芸人の「ブラックピーポーvsニガー(黒人に対する蔑称)」というネタがあります。ブラックピーポーが「俺らがどんなに頑張っても、ニガーが足を引っ張る」というと、ニガーは「俺は歴史の教科書すら読んだことねえし」と無知を自慢する。
つまり、黒人あるあるネタをやりながら「ブラックピーポーはちゃんと頑張っているのに、ニガーと一緒くたに見られるせいで権利が認められない」という主張をしているんです。
杉山:社会的なメッセージを、ネタとして発信している。
村本:一方、日本の芸人はテレビで売れるためにネタを披露する。これって、上司に実力を認めてもらって出世しようとする会社員と基本は同じですよね。求められた役割をこなして、みんなで番組を回すために芸人になる。
日本の芸人のネタは、「みんな同じようなネタばかりだ」と言われることがありますが、それはみんなテレビで売れようとしているからです。「何かを表現したい、吐き出したい」と思ってネタをつくっている人は、今の日本にはほとんどいないように思えます。