世界のトップシェフに向けたメディアであり、世界各国のシェフたちのネットワーキングを目的に毎年開催されるグローバルなイベント「FOTE」の母体でもある“Food on the Edge”も、「旬の食材を生かすドラマチックな感性」「恐れを知らない遊び心と優美さのマリアージュ」などと評したこの話題のレストラン「イコイ」について、「Forbes Africa」から翻訳許諾を得たので以下掲載する。
ある有名な口コミサイトによれば、ロンドン市内には105軒の「アフリカ」料理店がある。かたや「ヨーロッパ料理」で検索すると、ヒットするのは2654軒。この数字を見る限り、英国の首都の外食環境はフェアでない、と感じるアフリカ人もいるだろう。
ブイヤベースもフライドポテトもひとくくりにしてしまう「ヨーロッパ料理」という呼び方はなんだかおおざっぱで、実態がないと感じる人はロンドンに多い。なのに、ヨーロッパ50カ国を上回る「54カ国」を有するアフリカ大陸から来た食文化のことは、平気で「アフリカ料理」と十把一絡げにしている。
これをみると、ロンドンはたしかに国際都市かもしれないが、本当の意味での「食のコスモポリタン」を自称できるのはまだ少し先かもしれない。
ありがたいことに、アルゴリズム万能のこんな世の中になっても、この都市の飲食店数千軒の中から「これぞ」という一軒を選ぶとき、口コミはまだ頼りになるガイドだ。
そこでここでも、ある「アフリカ大陸」料理店──この場合の「アフリカ」はガーナ、セネガル、南アフリカだ──についての「口コミ」をシェアしようと思う。ロンドンで、遠く故郷アフリカを夢見ながら空っぽのお腹を抱えている読者のために。
幼なじみのジェレミー・チャンとハッサン=オドゥカレは、ラゴスを旅したことがきっかけでレストランをオープンした。チャンはイングランド北西部出身、ハッサン=オドゥカレはナイジェリア生まれだ。チャンはこう言う。「あえてナイジェリア料理は出していません。まったく革新的なものだけを出したいから。それが僕らの基本なんです」
「ジョロフライスの燻製」は、カニに捧げられた官能的なラブソングのような料理だ。完璧に仕上げられたアルデンテの米はカニの出汁で炊かれ、濃厚なカニクリームで仕上げられている。調理にはカニがまるごと一匹使われている。洗練されているのに、食すものをリラックスもさせるこういった料理からは、チャンの直観的な洞察力が伝わる。
つまり彼は、伝統を重視しつつ、実験的な企てにも挑戦しようとしているのだ。皿の上には、「21世紀の多文化主義」のいいところが凝縮されている、といった感じだ。