イタリアと美意識と秘密と

コンテンポラリーアートのイベントには着飾った富裕層が集まる(Getty Images)

10年以上前のことになるが、2007年の12月2日、イタリア放送協会「RAI3」の人気番組「Report」で、衝撃な告発が放送されて話題になった。それは、イタリアのナショナル・アイデンティティを象徴するモーダ界の“ビジネスモデルの危機”をレポートした内容だった。

「Report」は、社会の不正を告発する番組として、遠慮なく権力者や金持ちの不正を暴き、しばしば物議を醸す人気長寿番組で、20年間も続いている。

当時話題を呼んだのは、「Schiavi del Lusso」(ラグジュアリーの奴隷)と題し、豪華できらびやかなファッション界の裏に潜む闇を暴いた放送。現在も公式サイトでアーカイヴを見ることができるが、その内容はブランド価値基準とは何かを問いかけるものであり、その後、視聴者やブランドを愛するセレブたちもの考えを新たにさせて、現在に至っている。

日本でいえば「ブラック企業」

その闇とは、世界中で人気のイタリアのファッションブランド(番組では実名をはっきりをあげている)が、素材ダンピング要求や労働コストの徹底的な削減によって利益を上げていく「搾取型」のビジネスモデルであるというもの。昨今日本でも“ブラック企業”と呼ばれ問題視されている世界だ。

こうした搾取型ビジネスを支えているのが、不法滞在をしている中国人労働者たちだ。元締めを通して支払われる時給はかなり安く、ひどい環境下でカバンを縫う。一日12時間以上も働き、仕事がないときは摘発から逃れるため、生活している工場内で密かに暮している。イタリア中部のプラトーや南イタリアのナポリという町にこうした劣悪な下請け工場が無数に存在し、現在はチャイナタウンを形成している。

例えば、こうして生産された原価20ユーロ(約2600円)のバックが、ミラノのモンテナポレオーネ通りにあるブランド旗艦店で3000ユーロ(約39万円)で売られているといった具合だ。あなたにとってのブランドの価値とは何か? そのようなことを問われているような気になるのだ。



単純にその差額が利幅にはなりえないが、その他の経費を差し引いたとしても相当な儲け率といって差し支えないだろう。番組構成として秀逸だったのは、搾取型のブランドの比較対象として、いくつかの優良イタリアンブランドが紹介されていたことだった。

その一つに、世界の富裕層に支持されているBRUNELLO CUCINELLI(ブルネロ・クチネリ)というカシミアセーターで有名なブランドが紹介されており、企業理念や世界観の違いをまざまざと知ることになる。イタリアブランドの代名詞ともいえる、質が良くデザイン性に優れた製品を生み出すあるべき世界がそこにはある。



ビジネスプランナーの友人が、創業者のクチネリ氏にインタビューを行う機会があり、写真撮影者として同行したことがあった。ウンブリア州の片田舎にあるソロメオという小さな村全体がブランドの生産本拠地となっていて、そこには、職人の確かな技術力、労働者への正当で高価な賃金、的価での素材の買取り、スローフードな社員食堂があり、さらに寄付などの社会貢献も行われている。

文=廣瀬智央

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