フリマアプリ大手・メルカリが2018年6月19日、上場初日に時価総額6760億円を記録する異例の大型上場をし、日本のスタートアップシーンを次の舞台へと導いた。日本初のユニコーン企業、Forbes JAPAN起業家ランキング3年連続1位で殿堂入りをした起業家がもたらした「スタートアップ新時代の到来」である。
Forbes JAPANでは、15年2月号で、同タイトルの記事掲載を行った。(1)資金調達の大型化、(2)グローバル化、(3)大企業・新興企業との新連結をキーワードとして、スマホゲームgumiの累計100億円の大型資金調達や、KDDIが総額120億円をスタートアップに投資した「Syn.構想」に象徴される、リーマン・ショックにより冷え込んでいたスタートアップの資金調達環境の変化と新しい動きを書いた。
今回のメルカリ上場は、それを大きく上回るインパクトを与える。未上場時点の資金調達額175億円、設立5年というスピード感ある上場というシリコンバレー流を実現し、機関投資家からの未上場時の資金調達、海外投資家からの資本市場での注目、ストックオプションを用いた従業員への上場益の還流も行うなど、「『ビフォー・メルカリ』『アフター・メルカリ』とも言える時代のターニングポイントだ」(グロービス・キャピタル・パートナーズ高宮慎一代表パートナー)。
他スタートアップへの好影響も大きい。「国境を越えなければスケールしない中、海外展開のロールモデルになる」(WiL・伊佐山元CEO)。「競争が激化する中で戦うための経営陣を含めたチームアップが優れている」(グローバル・ブレイン百合本安彦社長)。
もうひとつ象徴的な事例も起きた。日本人起業家がシリコンバレーで立ち上げた、ビッグデータ分析クラウドの米トレジャーデータのM&A(合併・買収)だ。
ソフトバンク傘下の英Armが約6億ドルで買収し、17年8月のKDDIによるIoT通信・ソラコムの約200億円と報じられたM&Aを大きく上回る金額となった。M&Aが約8割以上を占めると言われる米国とは異なり、IPO中心の日本のイグジット(出口)戦略に、グローバル企業からの大型M&Aの事例は新しい展開をもたらす。
ジャパンベンチャーリサーチ調査の国内スタートアップの資金調達額が1438億円(14年)から4000億円弱(18年予想)と大きく伸び、メルカリに続けと総額100億円規模の大型調達をするスタートアップが増加する中、海外投資家から「スモールIPO」と言われてきたこれまでとは一線を画する可能性を秘めている。
「起業家ランキング」で選出した企業も、ネット印刷・ラクスル(18年1位)は18年5月に上場し、時価総額817億円(18年11月9日現在)。クラウド会計ソフトのマネーフォワード(17年7位)は17年9月に上場し、同768億円。経済情報・ニュースアプリ運営のユーザベース(16年3位)は16年10月に上場し、同880億円を記録するなど、ユニコーンに近づきつつある。
メガスタートアップへの複数の道
一方、上場後も成長を続け、「東証マザーズ経由ユニコーン」を目指す「ポストIPOスタートアップ」に注目する動きも出始めている。元ミクシィCEOの朝倉祐介、村上誠典、小林賢治が立ち上げたシニフィアンは、日本のスタートアップ・エコシステムを育むという視点で、上場後の時価総額数十億〜数百億円規模の企業の成長を支えるプレイヤーの必要性に目を向ける。
その背景には、上場企業3797社のうち、時価総額1000億円を超える企業が816社しかなく、マザーズ上場の上場時平均時価総額(16年)が約66億円という現実がある。
「スモールIPOの是非については議論があるが、実質的にマザーズがレイトステージのベンチャー投資機能を一部代替している。『大きく育てる』ことができれば、マザーズという選択肢は、起業意欲の醸成や連続起業家、エンジェル投資家の輩出につながり、日本のスタートアップエコシステムの強みになる可能性もある」(朝倉)。
新産業を創出するようなメガスタートアップを生むためには、未上場企業に対する支援を強化すると共に、小さく上場できる日本の市場環境を生かしながら、「持続的に大きく成長を遂げるための仕組み」づくりが重要だろう。編集部では今回、シニフィアンの協力をえて、上場後も成長に向けた取り組みを行っている「注目すべきポストIPOスタートアップ7社」を選定した。
前回記事では最後に、「スタートアップが日本経済の主役になる。そんな希望が生まれ始めた」と書いた。その希望は「メルカリ上場」によるエコシステム環境の整備で、一歩踏み出したといえる。宇宙、フィンテック、HR、ヘルスケア、エネルギー、クラウド、IoT、ソーシャル、モビリティなど、日本のスタートアップが挑むイノベーション領域の拡大が、グローバル、既存産業、新しい技術とつながることで、その歩みはさらに加速していくだろう。