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トレジャーデータの芳川裕誠と太田一樹(写真=クレイグ・リー)

これまで日本のスタートアップシーンに数少なかった巨額M&A(合併・買収)。その門戸を開き、次のステージへと導いたのは、米国創業の日本人起業家たちだった。


「成長の巡航高度に乗ってきたタイミングでもあり、会社を手放すつもりはありませんでした。それでもArm(アーム)と一緒になったのは、より事業を伸ばすためという戦略的な意思決定と、人類が次のレベルに進むため、と言ったら大げさかな(笑)」

2018年8月、半導体設計大手の英アームが、米トレジャーデータを約6億ドルで買収した。トレジャーデータは、芳川裕誠、太田一樹、古橋貞之の3人が11年に創業。現在アームのIoTサービスグループでテクノロジー担当バイスプレジデントを務める太田は、売却の理由をこのように語る。

太田らが見据える“人類の次のレベル”とは、いったい何なのか──。トレジャーデータはビッグデータの収集・解析基盤を企業向けにクラウドで提供しており、データ量の増加とともに成長を続けてきた。近年、データ量の伸びを支えてきたのはモバイルだったが、モバイルの普及が進む中、これ以上の大きな伸びは望めない。次のエンジンと目されているのはIoTデバイスだ。

デバイスには半導体が乗るが、今回、トレジャーデータが売却先として選んだのは、半導体コア部分の知財をスマートフォンなどの分野でマーケットシェア90%以上押さえているアームだった。

「アームは35年までに1兆個のデバイスをネットワークで接続するというビジョンを発表しています。人類一人あたり何十ものセンサーを身に着け、そのデータを取り込んで活用できるようになれば、人々の生活は劇的に安全で効率的なものになる」(太田)

日本では、スタートアップのイグジットとしてIPO(新規株式公開)が有力な選択肢だ。ただ、シリコンバレーではM&Aを選ぶ会社が多い。

当時トレジャーデータCEOで、現在はアームのIoTサービスグループでデータビジネス担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネジャーを務める芳川は、M&A(合併・買収)の経緯を次のように明かしてくれた。

「事業価値の正当な評価、両社の戦略の一致、新規顧客獲得という3つがうまく重なった。成長に向けてガソリンをガンッと入れたい時に、アームと一緒になるとそれが従来以上にできる。IoT事業の核にするとデータビジネス全般に対してのコミットメントももらった」(芳川)

彼らは、データ活用を進めて社会にインパクトを与えるために、事業戦略上のシナジーが得られ、リソースを存分に活用できるM&Aを選んだ。

シリコンバレーで将来有望なスタートアップがグローバル企業に売却されるケースは珍しくない。ただ、今回のように日本人起業家が現地で立ち上げ、巨額M&Aに至ったケースは極めて稀だ。

文=村上 敬 写真=クレイグ・リー

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