ビジネス

2018.12.12 06:30

ビジョナリー企業の経営者たちは、みなストーリーを持っている

今回、Forbes JAPANにとって初の試みとなった企画「Best Visionary Stories 2018」。その選考理由を説明する

来年どうなるかもわからない未来に対して、リーダーたちはいつもどんな手を打ちながら人々を導くのだろうか。リーダーたちが語るその導き方に、経験で培った洞察や人間観、そして個性が表れる。

優れたリーダーが見出す、過去から未来へのストーリーから生きるヒントを得ようと、今回初めて特集したのが、「Best VisionaryStories 2018」である。

選定は、「永続性」を生み出す企業の長期的価値を重視して次の方法をとった。財務情報を評価した「財務パフォーマンス」と、ESG(環境・社会・ガバナンス)といった非財務情報を「ESGパフォーマンス」として、まずは評価した。これは、2014年にForbesJAPANが創刊以来、毎年、上場企業のCEOランキングを発表する際、協力してもらったフィスコIRに依頼した。同社は、企業のIR活動を支援している。

さらに、財務とESGの2つのパフォーマンスを、「潜在的な経済価値(適正水準、ToBe)」と、「実質的な経済価値(現状水準、As Is)」で定量化した。適正水準と現状水準の差を「ギャップ値」として、ギャップが小さい企業を上位とした。

企業の業績(連結決算売上高、営業利益、純利益、来期予想純利益)は、18年3月期末の値、12月決算企業は17年12月期末の値を採用した。また、ESGパフォーマンスを重視した理由を、フィスコIRの中川博貴が解説しているので是非ご覧いただきたい。

ちなみに、下に示した日欧企業アンケートの比較でも明らかだが、欧州企業がエンゲージメントの対象として重視するのが、従業員、地域社会、NPOなどだ。「エンゲージメント」という概念の捉え方の違いもあるが、日本以上に積極的に働きかける先が多いのはヒントになるだろう。



「経験」と「大局観」

上場企業を数値化した結果、総合点でトップだったのが、エーザイである。また、上位からさらに絞り込み、環境の激変に対応しながらもビジョンを提示し、社会に価値を与えている企業を選んだ。それが、日立製作所伊藤忠商事KDDI東京エレクトロンデンソー、トヨタ自動車となった。

「先見性」や「未来志向」を意味するビジョナリー企業の経営者たちは、企業価値の向上につながるストーリーをもっている。代表格であるエーザイを例に見てみよう。

エーザイは16年に中期経営計画「EWAY2025」を発表後、売上収益と営業利益を順調に伸ばしているが、注目すべきは、昨年、打ち出した新しいビジネスモデル「エーザイ認知症エコシステム(プラットフォームモデル)」だ。

同社は認知症について、長年の知見と技術がある。このエコシステムでは、認知症と共生する「まちづくり」の実現に向けて、提携を行う。メンバーである認知症当事者や家族が、さまざまなパートナーから提供される医療、介護のほか薬剤やバイオマーカー、診断ツール、保険などのコンテンツを通じて便益を得ることを目指すものだ。

また、製薬業界は買収などのM&Aが活発だが、エーザイはそうした方法ではなく、戦略的パートナーシップを構築。認知症と同様に得意分野である「がん」で、18年、米メルク社と戦略的提携に合意した。

エーザイの抗がん剤「レンビマ」とメルク社の「キイトルーダ」との併用療法の共同開発をすることで相乗効果の極大化を目指すという。認知症など神経領域と、がん領域というエーザイが得意とする強みを活かす「患者様貢献の早期拡大」だという。

明確な理念、理念を浸透させる地道な活動、そこからもたらされる豊富な経験値、強みを活かすパートナーシップ、地球規模で向上する企業価値。企業活動の理想形と言えるかもしれない。

今回、ビジョナリーとして取り上げた7社は、長年培ってきた技術や企業文化が、激変する環境において強みとして発揮できたのはもちろんだが、リーダーが若いときにどんな意識で仕事に取り組んできたか、その「経験」が、大局観をもたらしたように思う。

文=藤吉雅春

この記事は 「Forbes JAPAN 新しい現実」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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