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ㅤ鎌倉市在住のフリーランスライター兼編集者

伊藤忠商事会長CEO 岡藤正広

ビジョナリーとは「未来を見通す力」である。未来の予測なんてできるのか、と思うかもしれない。でも、私たちの周囲には「未来を見通したストーリー」はたくさんある。現在があるのは、過去に未来を見た人たちがつくりあげたからだ。Forbes JAPAN 12月号では、国内外のトップ経営者、識者に聞いた「ビジョナリーストーリー」を展開する。

伊藤忠商事を総合商社ナンバーワンへと導いた岡藤正広。その素顔は気遣いの達人だった。強い伊藤忠の根幹には何があるのか。急成長の立役者が未来商人道を説く。



ポートレート撮影中、余談で是枝裕和監督が岡藤会長と初めて会ったときの印象を伝えると、カメラを前にこわばっていた表情がすっと和らいだ。

「僕が社長だったころ、伊藤忠のテレビCMと『きょうの、あきない』というミニ番組の監修をお願いしたんですよ。あれから是枝さんは賞をたくさん受賞されて、世界的な映画監督にならはって。僕と知りおうた人が大成するのは嬉しいことですわ」

今年5月、映画『万引き家族』がカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞したと知るや、岡藤は自らのメッセージを添えた花を用意し、是枝の事務所へ部下に直接届けさせた。ここに、「商人」としての彼の流儀が窺える。

相手が苦境の時こそ「何ができるのか」

岡藤正広は、2010年の社長就任後、数々の改革を実行し、15年度には三菱商事や三井物産など財閥系商社を抑えて総合商社1位に成長させた立役者だ。この成長は、「社員がやりがいを持って存分に働き、家族にとっても一番いい会社」というビジョンが確実に社全体に浸透した結果と言えよう。

岡藤自身も「幸せを感じている社員は特に指示をしなくても、それぞれが最高のパフォーマンスを発揮し、お互いに助け合う。そこに組織としての力が生まれる」と端的に説明する。

13年に導入された「朝型勤務」制度、16年の「伊藤忠健康憲章」制度なども、岡藤による発案だ。17年には、民間企業として初めて国立がん研究センターと提携し、「がんの予防・早期発見・治療サポートと仕事の両立」にも乗り出した。しかも社員が死亡した場合は「子女育成資金」として無償の学費援助まで行う。優秀な社員をどのように守るか、並々ならぬ決意には大きなきっかけがあった。

「17年2月、がんで闘病中の社員からメールをもらったんです。そこには長期療養者に対する会社や同僚の手厚いサポートに対するお礼に加え、ある雑誌の『幸せな会社ランキング』で伊藤忠は2位だったけれど、僕にとって伊藤忠は日本で一番いい会社です、と書かれていたんですよ」

社員が亡くなった日の翌日、岡藤は「仮に病気になっても物心両面で支える伊藤忠にしたい」という内容のメールを全社員に送った。

文=堀 香織 写真=ピーター・ステンバー

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