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KDDI代表取締役社長 髙橋誠

KDDIはベンチャー連携による「イノベーティブ大企業ランキング」で1位を獲得した。長年にわたり起業家たちから信頼を得てリードしてきたのが、新社長のこの人だ。


まずは、2年前の象徴的なエピソードから紹介したい。

2016年9月、ソラコムの玉川憲は渋谷ヒカリエを訪ねた。当時、玉川はIoT向けに最適化されたプラットフォーム「SORACOM」のサービスで、国内外で4000ユーザーを積み上げていた。地方のバス会社や自動販売機から物流管理網まで、センサーなどをネット回線に低価格でつなげるものだ。

「お客さんの数が伸びていたこともあり、次のステップとして自社の技術を通信キャリアさん側に提供したいと思っていました」と、玉川は言う。MVNO(仮想移動体通信事業者)から枠を広げ、今後は通信キャリアを通じてIoT向けサービスを展開したい、そう考えたのだ。

とはいえ、サービス開始1年の小さな会社で、相手は大企業だ。「時間をかけないと、キャリアの方々との話は進まないだろう」と、最初は「種まき」という気持ちで、紹介されたKDDIの髙橋誠(当時副社長)に面会を求めた。ところが、説明を始めると、髙橋の反応に面食らった。

「面白いねえー」

勘が鋭く、理解が早い。おまけに、「ソラコムのチームは仲が良さそうだ」とか「IoTはマーケットがある」と言う。そして30分も経たないうちに、こう言うのだ。

「やってみようか」

一般的に大企業は意思決定に時間がかかるイメージがある。それが30分も経たずに崩され、わずか3カ月後には、共同開発のIoT向け回線サービス「KDDI IoT コネクト Air」を発表。通常なら1年はかかる案件だ。さらに─。

「髙橋さんは、『日本の大企業はベンチャーを買収する際、リソースとして取り込むことを考える。逆に、シリコンバレーでは大企業のリソースを使って、若い会社をどう伸ばすかを考える』と、おっしゃる。そんな話を聞いて、KDDIと一緒になると、やりやすいだろうなと、私は考えるようになり、髙橋さんにM&Aを相談したんです」

そのときも髙橋はこう言った。「面白いね」と。そして「検討してみよう」と、経営陣への提案を約束したのだ。こうして、ヒカリエの出会いから1年も経たない17年8月、新聞の一面を飾ったのが、〈KDDI、ソラコムを買収〉という見出しだった。

すぐにシナジーを求めると、うまくいかない

近年、大企業とスタートアップが組み、「オープンイノベーション」を標榜する事例が増えている。しかし、うまくいっている例は多くない。大企業がもつ既存客、スタートアップがもつ一点突破型の技術が融合して新たな領域を築くはずが、お互いに欲しいものを求めるあまり、「カルチャーが合わない」となるパターンだ。

今年4月に社長に就任した髙橋は、長年、KDDIの新規事業で中心的な役割を果たしてきたことで知られる。また、スタートアップや大手企業と共同で新規事業をつくりだす「KDDI Mugen Labo」や、CVCの「KDDI Open Innovation Fund」を通じた投資を展開。この9月には、顧客やパートナーと一体となって推進する5G・IoT領域のビジネス開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」を虎ノ門に開設した。いずれも髙橋が主導したものだ。

若い起業家たちから厚い信頼を得る髙橋は、規模もカルチャーも異なる組織と、なぜ協業できるのか。髙橋に流儀を聞くと、「大企業側がすぐにシナジーを求めてしまうと、うまくいかなくなる」と言う。

「パートナーに私たちのアセットを最大限に使ってもらい、影響力を及ぼす企業になってもらうことを第一優先で考えたい。結果として私たちと関係性ができ、初めてシナジーが生まれる。遠回りですが、我々にない発想をヒントに我々も成長するんです」

この考え方には原体験がある。

髙橋は1984年に京セラに入社した直後、稲盛和夫らが電電公社への対抗軸として立ち上げた第二電電企画(85年にDDIに商号変更)に一期生として出向した。設立のきっかけは、そのわずか1年前に電電公社の技術調査部長だった千本倖生が国内通信の自由化を訴え、稲盛を口説いたことに始まる。

文=藤吉雅春 写真=ピーター・ステンバー

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