この夏季ダボスで、今回、李克強首相に続いて多くの注目を集めた人物がいる。それは、先ごろ、中国EC大手アリババグループの会長職を引退すると宣言したばかりのジャック・マーだ。
マーは最終日の9月20日に登壇し、引退後のビジョンや成功の秘訣、後継者指名したダニエル・チャンのことなど、1時間近く語った。定員300人超の会場は、開場と同時に満席となり、立ち見はもちろんのこと、会場内に入れない参加者も続出した。
マー引退のニュースが世界を駆け巡ったのは、9月10日。中国では親と子どもが先生に感謝の意を表す「教師の日」だ。それはマーの54歳の誕生日でもあった。その後の10日間、マーは多忙を極めたという。勝手な憶測や噂が飛び交い、彼のもとにはさまざまな世界のトップから「次は何をするんだ?」と電話やメッセージが相次いだからだ。
心ない噂のなかには、マーが多額のキャッシュを国外に持ち出す、というものまであった。彼はそれらについて、「悲しく思うし、フラストレーションもあるけれど、挑戦する人々はゴシップの海を泳ぐ方法を学び、生き残らないといけないんだ」と肩をすくめた。
また、マーの周囲も「突然の引退」にかなり混乱したようだ。しかし、彼にとって、今回のことは突然の話ではなかった。いまから24年前、事業を始めるために30歳で故郷の大学の英語教師を退職したマーは、「10年後に自分は大学に戻る」と決めていたのだ。
なぜ「引退」したのか?
それにしても、自らが創業したアリババグループが世界最大級の企業に成長したいま、引退に迷いはなかったのだろうか。
「54歳というのは、インターネットの世界では若くはない。でも他の産業やビジネスではまだ若い。自分も、もしかしたら、あと15、6年は他のことができるかもしれない。でも55歳、さらには60歳を超えたら、現状の仕事にしがみついてしまうものなのだ」
彼は、当初引退を予定していた40歳になったときから、それについて考えていたという。しかし、「まだ会社に明確な方向性が定まっておらず、引退は不可能だった。40歳で大学に戻って来られると思っていたのは、少しナイーブだったかもしれない」と苦笑する。
45歳のときも「50歳になったら辞めよう」と思っていたが、実現できず、「55歳の前にやらないと」と、とうとうこのタイミングになった。今回、会長を辞して、アリババグループの経営から退くことは、自身のなかでは3年前にすでに決定しており、引退に向けて時間をかけて組織体制を整えてきたという。