ビジネス

2018.11.27

「共感」を起点に スマートニュースが目指す次世代ジャーナリズム

浜本階生(左)、鈴木健(右)


トランプ大統領選前後のアメリカの空気を現地で体感した浜本と鈴木は、スマートニュースの理想を「民主主義のプラットフォームになること」と語る。

貫くコンセプトの一つが「発見」だ。スマートニュースを使っても、自分に最適化された情報だけが送られてくることはない。アルゴリズムの力を使って、広く社会で話題になっているものを取り込み見識を広げることに力を入れる。アメリカ版ではさらに踏み込んだアルゴリズムを導入し、例えばトランプ大統領を支持しないリベラル層であっても、反対側のニュースもバランスよく表示される。

浜本に言わせれば「すべての人たちに良質の情報を届けるために、テクノロジーは道具であり、手段であり、かつ万能ではないけど手助けはできるもの。だけど手助けはうまくいったときに相当、有効な力になる」となる。

ここでいう良質な情報とは「触れることで人生を豊かにする情報」(浜本)。新しい世界を見せる、新しい発見につながる情報を意味する。

だからこそ、鈴木はこの時代にニュースアプリを提供する以上、エコーチェンバーや個人に最適化された情報ばかりが集まり他の意見に触れなくなるフィルターバブルといった現象に向き合わなければならないと強調する。
 
彼らはニュースを食べ物に例える。ある人は健康にいいからという理由で人参ばかりを食べ、甘いものが好きな人は「あなたに最適」だという理由でキャンディばかり食べているとしよう。どちらが健康に悪いかといえば、どちらも悪い。人間にはバランスの良い食事が必要で、適切なバランスのなかで人参もキャンディも必要になる。

「理想はバランスであるがゆえに問題は難しくなる。個人に最適化されただけの情報を取ればいいというわけではない。僕たちはアルゴリズムの支援によってバランスを取ろうとしている」(鈴木)

彼らが掲げる理想はわかる。だが、理想をくじくような研究があるのも事実だ。フェイスブックページを対象に科学ニュースを読むグループと陰謀論をフォローするグループを比較すると興味深いことがわかった(日経サイエンス2017年7月号「ネットの共鳴箱効果」)。

科学ニュースを読む人は陰謀論に触れることはなく、逆に陰謀論を読む人たちは科学ニュースを読まなかった。ここまでなら鈴木が語るように双方に逆の立場のニュースを見せるようなアルゴリズムを開発すればいいという発想になる。だが、現実はもう少しばかり複雑だ。ネット上で特定の話(科学や陰謀論)に頻繁に接する人たちは、フェイスブック上で同じ考えの人ばかりが友達になる傾向が確認された。

ならば陰謀論に代表されるような根拠のない主張は事実ではない、と指摘したらどうだろうか。彼らが信じる主張の誤りを暴けば、すべては解決するだろうか。そんな甘いことは起きなかった。あるタイプのユーザーは、虚偽を暴かれたところで考えを変えるどころか、陰謀論への思い込みが逆に強まった。

単純にバランスよくニュースを表示するだけでは解決できない問題があるのではないか。そう問うと鈴木は一瞬、言葉を止めてじっくり考えたあと、もう一つのキーワードを口にした。それが「共感」だ。

「アメリカで、分断を解決するには究極的には自分とは違う相手への共感がポイントだと思った。単にファクトの問題ではない。事実を突きつければいいということではなく、相手への共感を生むもの。これが次のポイントになる」(鈴木)

浜本は「共感を得るために、人間が本当に思っていること、考えていることを理解するアルゴリズムの成熟が必要だと考えている」と語る。

異なる相手であっても、どこかで自分と近いところがあると思えるような仕掛け。それができれば、インターネットはマイナスからゼロ、さらにプラスへともう一度振り子が戻っていくかもしれないというわけだ。
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文=石戸諭 写真=西澤崇

この記事は 「Forbes JAPAN 日本の起業家」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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