奨学金と特別枠
米国では驚くべきことではないかも知れないが、3週間のサマープログラムで授業料は3945〜4580ドル(約45〜52万円)と、CTYが非営利団体であることを考えると、決して安くない。しかし、しっかりと奨学金が用意されており、15〜18%の参加者には支援が出る仕組みになっているようである。
日本では、非営利団体が提供する教育プログラムは無償、またはそれに近い金額になっていることが多いが、事業の継続性を考えると、質の高い教育を提供し、きちんと対価を支払える人には負担いただき、払えない生徒には奨学金を給付する方が、教育の「格差是正」効果を発揮しやすいのではないかと思う。
また興味深いのは、数学と英語、各セクション800点満点の合計1600点制のSATにおいて、どちらかのセクションで13歳までに700点をとったことがある(つまり13歳までに全米の大半の大学を受験できる基礎学力レベルに達している)生徒たちのために、特別コースが設けられていることである。
このコースについて、いわゆる“飛び級”を目指す生徒向けのプログラムなのかと尋ねると、「以前は飛び級を目指す生徒が多かった。しかし、最近はあくまでも同世代の友人が欲しいということで、学校では年齢相応の学年に留まったまま、特別コースで好奇心を満たすことだけを目指す生徒も増えるなど、価値観の多様化が進んでいる」とBrodsky氏は言う。
日本での展開の可能性
こうしたプログラムはどうしても、ごく一部の天才児のためだけのもののように誤解されがちである。しかし実は、日本にもこうした子ども向けのプログラムのニーズはあるのではないかと考える。
30人学級が平均的だとすると、教員がどう頑張っても、クラスで数名は、授業の内容が物足りないと感じてしまうのは致し方ない実情である。もちろん、今後はテクノロジーの導入でより習熟度にあった指導が可能になるであろう。しかしそれでも、「もっと宇宙について学びたい」「経済の仕組みについて知りたい」といったニッチな領域について、生徒の個別の知的好奇心を満たすことは容易ではない。
CTYは、授業の先取りや受験対策を目的とする塾とは一線を隠し、あくまでも授業では満たされない好奇心を満たすプログラムなのだ。
香港では、CTYへの参加者が毎年増え続けたことを受け、保護者が主体となってプログラムを香港へ誘致した。ギリシャでは、ギリシャ語でカリキュラムの一部を提供できるように開発する動きがあり、マレーシアでもこうしたプログラムを教えることのできる教員養成をする動きがあるようだ。
日本にも「異能を育てる」ことを謳うプログラムは複数あるが、ぜひCTYを参考に、幅広い生徒にこうしたチャンスを提供できるような取り組みに育つことを期待したい。
ISAK小林りん氏と考える 日本と世界の「教育のこれから」
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