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シネマの女は最後に微笑む

映画『ナチュラルウーマン』マリーナ役のダニエラ・ベガ(Getty Images)

先月22日、トランプ政権が、性の定義を生まれつきの性別に限定し、変更を認めない措置を検討していると報じられた。性転換手術を受けて異性になった場合でも、行政的には元の性のまま扱われるという。トランスジェンダーを排除することになる方針に、波紋が広がり続けている。

アップル、アマゾン、フェイスブック、グーグルなど、テクノロジー系の企業数十社が共同で、トランプ政権のトランスジェンダーへの差別を非難し、50社以上の企業が、今月1日に発表された企業声明に署名した。次いで、1642人の科学者が「科学だけでなく、倫理にも人権にも尊厳にも反する」として公開書簡を発表している。

オバマ前政権は、性の定義を生まれた時の身体的な性別ではなく、各自の性自認とする考えを打ち出していた。2015年には米連邦最高裁判所が同性婚を認めるなどリベラル派の考えが広がったが、こうした動きには保守派、キリスト教福音派が大反対していた。

今回の新しい定義の検討には、トランプ大統領の重要な支持基盤とされている福音派の支持を固める目的があると言われている。

「普通の女性」でないというだけで…

『ナチュラルウーマン』(セバスティアン・レリオ監督、2017)は、トランスジェンダー女性を描き、第90回アカデミー賞外国語映画賞、第67回ベルリン国際映画祭銀熊賞などを受賞した作品。原題は『Una mujer fantástica』といい、「素敵な」「不思議な」という意味をもつ「ファンタスティック」をトランスジェンダー女性に重ねていると思われる。主演を務めたチリの女優でオペラ歌手のダニエラ・ベガは、この作品で大ブレイクを果たした。

世界最大のイグアスの滝の荘厳な風景がタイトルバックに映し出され、物語冒頭では、歌手のマリーナ(ダニエラ・ベガ)とバツイチでかなり年上の恋人オルランドの親密な関係が描かれる。

マリーナとイグアスの滝に行くための旅券の封筒をどこかに置き忘れたオルランドが、彼女の誕生日を祝うレストランで「イグアスの滝に行く券」と書いた紙を封筒に入れて渡す場面が微笑ましい。

二人で暮らす家に帰り愛し合って眠りについた後、オルランドに異変が起こり、急遽病院に搬送するも彼は帰らぬ人となってしまう。ここで、家族ではない上に性別変更手続き中のマリーナに対する医師や警察官の対応は、ことごとくぞんざいで失礼だ。

最愛の人を失って打ちのめされたマリーナにはこの後、さらに冷たく厳しい風が容赦なく吹きつけてくる。

翌日、マリーナの働くレストランに訪れた「性犯罪科」の女性刑事は「あなたのような女性は心得ている」と一定の理解を示す態度を見せつつも、オルランドとの性関係を無遠慮に探り、「ちゃんと話せ」「街から出るな」と警告する。

オルランドの外傷が、病院に行く際にアパートの階段から転げ落ちてできたものであることは、既に病院で聴取済みなのに、相手が「普通の女性」ではないというだけで、向けられてしまう疑惑の目。

任意出頭を求められ、警察署で身体検査を強要される場面には、トランスジェンダーに対する世間の好奇と偏見がそのまま露骨に現れている。

文=大野左紀子

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