「こうするしかない...」 友人のために奔走した女子学生の諦念

オティリア役のアナマリア・マリンカ (Photo by Pascal Le Segretain/Getty Images)

先日、NPO法人ピルコンが、性交後に飲む緊急避妊薬「アフターピル」の市販化などを求める署名キャンペーンを始めたというニュースがあった。アフターピルの市販化については2017年に厚労省で検討されたが、「薬局で薬剤師が説明するのが困難」「安易な使用が広がる」などの懸念を理由に否決されている。

近年減少傾向があるとは言え、日本の人工妊娠中絶件数は世界でも常に上位にある。厚生労働省の平成28年度調査結果によると、国内の中絶件数は16万8015件あり、20歳未満では19歳が6111件と最も多い。19歳の女性の98人に一人が中絶を経験している計算になる。

現在、中絶を禁じている国は6カ国、例外はあるが基本的に違法と見なしている国は10カ国以上。一方で、毎年約2200万件の危険な中絶が主に発展途上国において行われ、毎年約700万人の女性が入院しているという。

『4ヶ月、3週と2日』(クリスティアン・ムンジウ監督、2007年)は、妊娠した友人の違法中絶のために奔走する女子学生の一日を描いた作品。第60回カンヌ国際映画祭のパルム・ドール他、多くの映画祭で受賞、ノミネートされた。

すべては友人のために

舞台は1987年のルーマニア。チャウシェスク独裁政権は、人口増加を狙って1966年から人工妊娠中絶と離婚を禁止していたため、危険な違法中絶が横行し、妊婦の死亡率は3倍になり、望まれずに生まれた多くの子供たちが孤児院に送られていた。

粉雪が舞う季節、とある学生寮の一室にいる二人の女子学生のやりとりから物語は始まる。不安げで落ち着かないのは、黒髪のガビツァ(ローラ・ヴァシリウ)。彼女にアドバイスをしながらてきばき動いているのは、金髪のオティリア(アナマリア・マリンカ)。二人はどうやら寮を数日留守にする予定らしい。

オティリアは恋人アディに会いに行き、お金を借りる。今夜開かれる母親のバースデイパーティに来てくれと言うアディに、はっきりしないオティリア。ちょっとした言い合いになるもののオティリアは彼の気持ちを汲んだ返事をする。

オティリアが次に訪問するのは、小さなホテル。ところが電話予約をしたガビツァが確認を怠っていたために、部屋が取れていない。仕方なくオティリアは別のホテルに行き苦労して予約を取るが、予算をかなりオーバーしてしまう。

さらにガビツァに代役を頼まれたオティリアは、町外れで待っていたベベという男と落ち合う。ベベは、来た相手がガビツァ本人ではなく、またホテルが自分が指定したのと違うことにかなり不機嫌になる。

ここまでは、オティリアという女子学生がなぜあちこち駆け回っているのか判然としないが、次のホテルのシーンで、すべては妊娠したガビツァの違法中絶のためだったとわかる。

寮内を回って友人達から必要物資を集めたのも、アディにお金を借りたのも、ホテルを予約し直したのも、闇で中絶手術をする医者ベベと会って彼をホテルに連れていったのも、全部そのためだ。ではこれは、厳しい状況下での若い女性の友情物語なのかというと、残念ながらそんなわかりやすい感動はやってこない。
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文=大野左紀子

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