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2018.10.27 17:00

「こうするしかない...」 友人のために奔走した女子学生の諦念


まず、当事者であるガビツァのいい加減さが目につく。ホテル予約の確認は怠るし、ベベには自分で会いに行かず、オティリアのことを姉だと嘘をつき、中絶手術を断られるのを怖れて妊娠4ヶ月を2ヶ月と偽るし、当日もベッドに敷くためのビニールシートを寮に忘れてくる。

本人に悪気があるわけではないのだが、ガビツァはどう見ても自立心が低く人に依存しがちで、かなり脇の甘い女の子だ。その上、「この人、危なっかしいから助けてあげないと」と思わせてしまうところがある。

オティリアは特に面倒見のいいおせっかいタイプではないだろうが、そんな友人のピンチを放っておけるほど冷血でもない。学生の身分ゆえ子供を産み育てることはできないし、中絶はこの国では重大な違法行為のため、闇医者に高い金を払ってこっそり処置してもらう以外に道はないのだ。

「こうするしかない…」

法をかいくぐる危険な仕事をしている闇医者ベベは、ガビツァが細かい嘘をついていたことで更に不機嫌になり、ホテルの部屋で長々と説教を始める。その上、彼女たちの払える金額が料金に満たないとわかって激怒、二人に体で払うことを要求する。

急速に緊張感が高まってくる一連の場面で、ガビツァは取り乱してベベに泣きつくが、交渉が無駄だと知ったオティリアはベッドに腰掛け靴下を脱ぎ始める。このシーンで彼女の顔は見えないが、「こうするしかない」という諦観と絶望がその背中に滲んでいる。

下半身裸のままでバスルームに飛び込んでくるオティリアの表情、無言で陰部を洗う背中、その後ベベの待つベッドルームに行ったガビツァがやがて戻ってきて泣きじゃくる声、彼女に声をかけないままバスルームから出ていくオティリアの横顔。彼女たちの傷心と払った代償の大きさ、理不尽さと事態のどうにもならなさが、淡々と描かれていく。

ベベがトイレに行っている隙に彼の鞄を盗み見て、咄嗟に折りたたみナイフを盗んだオティリアの行為が意味するのはささやかな反撃だが、そのナイフでベベを刺せるわけでもない。どこにもぶつけられない怒りの、「こうするしかない」中途半端さが悲しい。

ベベが帰った後、ベッドに横たわったガビツァに一連の不手際を問いただすオティリアの横顔には、葛藤と諦めと苦しみが交錯する。そして彼女たちを取り巻く状況の閉塞感の深さが、じわじわと伝わってくる。

寒々とした街の描写にも、当時のルーマニアの閉塞した状況が映し出されている。ホテルの廊下の点滅する蛍光灯、水溜りの多いでこぼこの舗装道路、散乱するゴミ、店舗に並ぶ人々の列、剥がれかけて修繕されないままのアパートの壁、うろつく野良犬、街灯のまばらな暗い夜道。

恋人との約束を果たすため、ホテルにガビツァを残してアディの自宅に顔を見せたオティリアは、親族も招かれたパーティにしばしつきあうはめになる。ここで疲れた彼女を更にうんざりさせるのは、間断なく交わされる大人たちの賑やかな会話だ。そこから、この国で女性が抑圧されず自由に生きることの困難が浮かび上がってくる。
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文=大野左紀子

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