寺田倉庫は1950年に創業した歴史ある企業だが、現代表の中野善壽が2011年にトップ就任してからの8年間で、キャッシュフローは8倍に。また、2018年には優秀なアートパトロンを讃える「モンブラン国際文化賞」を国内の法人格として初めて受賞するなど、異例の活動が注目を集めている。
そんな寺田倉庫の「再解釈」の裏側が、10月9日、虎ノ門ヒルズで開催されたForbes JAPANとオカムラの共同発刊『WORK MILL with Forbes JAPAN』第3号の発刊イベントで語られた。
本誌のテーマは、「イノベーションの先にあるもの」。ここ20年近くもてはやされてきた、テクノロジーが主導する効率性向上を追求する進化、「シリコンバレー式イノベーション」に代わる新たな価値の生み出し方はどこにあるのか。次世代の中心になりうる価値を求めて、ロンドン・北京・東京を取材した。
イベントでは、本誌でも取材した、既存の価値を「再解釈」することでユニークなビジネスを展開する企業が登壇。寺田倉庫 代表取締役CEOの中野善壽による基調講演にはじまり、スマイルズの遠山正道と自然電力代表取締役の磯野謙によるトークセッション、ベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の著者・山口周と『WORK MILL』編集長・オカムラの山田雄介による特別対談が行われた。
ここではその中から、中野による寺田倉庫の「再解釈」事例を紹介する。
1000年倉庫を目指して
寺田倉庫は1950年に創業、日本で初めてトランクルームが国土交通省に認定されるなど、歴史ある倉庫企業だ。それまでは、文書保管などをはじめとするBtoB事業をメインに展開してきた。とはいえ、倉庫業は差別化が難しいのも事実。特にBtoBは価格競争になりがちだったという。
中野が社長に就任したのは2011年。会社の規模を大きくするのは難しくても、既存の財産を活かした武器を生み出すことはできる。規模の拡大とは違った形で自社の価値を再解釈することで、会社を生まれ変わらせようとしたのだ。「どんなに小さくてもいいから、何かの分野でナンバー1にならなければ。そう思いました」
中野が行った最大の再解釈は、倉庫で預かったモノを「動かさない」ことに価値を見出した点だ。これは倉庫業の常識からすると大きな発想の転換だ。