ビジネス

2018.09.14 18:00

「パニクるな!」 岐路に立つテスラとイーロン・マスク

イーロン・マスク (Photo by Chris Saucedo/Getty Images for SXSW)

イーロン・マスク (Photo by Chris Saucedo/Getty Images for SXSW)

革新的なモノやサービスを生み出し、世の中の仕組みまで変えてしまう実業家を「ビジョナリー」経営者と呼ぶ。

「ビジョン」とは何かが見えること、視力、あるいは目に見える像のことだ。ビジョナリーという言葉には、凡人にはよく見えない未来を鋭く見通す眼力を備え、その夢に形を与えるために集団を引っ張っていくリーダー、というニュアンスがある。

ビジョナリー経営者の動きはダイナミックで、ハタで見ていると刺激的でワクワクさせられる。でも、投資となるとそうは言っていられない。ビジョナリーは時に、全財産を投じて大きな勝負に出る。大成功か、それとも破綻か。真ん中はないー。こういう会社に投資をしたら、同じ船に乗って荒波を被ることになる。

昔、日本株のアナリストをやっていたとき、ソフトバンクを担当したことがある。時価総額が20兆円を超えて一時トヨタ自動車を抜いたITバブルのピークから、バブルが弾けて2カ月で株価が7割も下がった頃だ。すでに投資損で800億円の赤字が出ているのに、孫正義社長がブロードバンド事業参入で大規模投資を決め、5000億円という負債を抱え込んだ。会社が潰れるんじゃないかと慌てた投資家も多かった。



ソフトバンクはスプリント買収などに絡んで今でも15兆円の負債を背負いこみ、財務を懸念する声は相変わらず強い。でも加入者から毎月料金を徴収できる通信事業を取り込んだことで、昔と比べて事業のキャッシュフローはずっと安定している。今や時価総額12兆円だから、多くの投資家が見放して時価総額が3000億円以下に下がった2002年に買っていたら、リターンは40倍だ。

テスラ、この秋が正念場

さて、電気自動車と宇宙事業という二つの未踏領域に同時に挑戦し、孫さんをも凌駕するビジョナリーといえば、テスラCEOのイーロン・マスクだ。その事業は今のソフトバンクとは比べようもないほど、ハイリスク・ハイリターンといえる。

今年2月、マスク氏の宇宙事業スペースXでは、現役ロケットとして最強の「ファルコン・ヘビー」の打ち上げに成功した。その積荷として宇宙空間に打ち上げた彼の愛車には、「パニクるなよ!(DON’T PANIC!)」というスティッカーが貼ってあった。マスク氏の少年時代の愛読書、SFコメディーの古典「銀河ヒッチハイク・ガイド」からの引用だ。



9月5日現在、テスラ株は8月のピークから1カ月で25%程度下落している。空売りポジションも浮動株の4分の1と多いが、「パニクって」売った順張りの投資家も大勢いたようだ。

8月初めにマスク氏がテスラの株式非公開化案を突如ツイートで発表したと思ったら、20日もしないうちにそれを撤回。マスク氏のソーシャルメディアでの情報開示のあり方を巡り、虚偽や株価操作の疑いで米証券委員会(SEC)が調査を始めたことが、更なる株価の重しになった。

資金繰りも綱渡りだ。6月末決算の開示では現預金は22億ドル程度あるが、損失はまだ拡大していて、4〜6月の四半期では営業赤字と新たな投資で18億ドル程度の現金流出が起きている。借金などを財務でやりくりし、何とかキャッシュをバランスシート上に確保しているが、負債も100億ドル規模に膨らんでいる。
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文=小出フィッシャー美奈

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