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リケジョの「自動車ジャーナリズム」

ファルコン・ヘビーに搭載されたイーロン・マスクの所有車、テスラ「ロードスター」

デヴィッド・ボウイの名曲、「Life on Mars?」が流れる中、イーロン・マスクの所有車である真っ赤なテスラ「ロードスター」が、宇宙服を着たマネキンドライバーを乗せて宇宙をたゆとう。そんな冗談とも、本気ともつかない映像が2月5日、Youtubeを通して世界中にライブ配信された。

その日(日本時間2月7日未明、現地時間6日午後)は、テスラ・モーターズのCEOのイーロン・マスクの宇宙企業、スペースX社が「ファルコン・ヘビー」の発射に成功しただけでも注目を集めたのだが、その機内にテスラが最初に世に送り出したEVスポーツカー「ロードスター」が積み込まれ、太陽を巡る軌道に載るという粋な演出も、大きな話題を呼んだのだ。


ファルコン・ヘビーの打ち上げ後、両サイドのブースターが地上に戻り着陸する様子

その詳細はといえば、ファルコン・ヘビーは「3本の矢」から成る構造で、打ち上げたあとに、まずは左右のブースターが地上に戻って着陸する。その後、センター・コアが着陸する予定だったが、今回は残念ながら、センター・コアは海上に着水して回収はできなかった。

最後に、二段構えの機体から分離した“フェアリング”だけが順調に宇宙空間で飛行を続け、6時間を経て、地球と火星の公転軌道を遷移する楕円軌道に向かった。そして、宇宙空間に到達すると、フェアリングが外れて、赤いテスラ「ロードスター」を駆る宇宙服の麗人(!?)が現れる映像がユーチューブで世界に配信されたのだった。

要は「楕円軌道上で長時間飛べる上に、エンジン噴射によって、自力で半永久的に太陽の周りを回る軌道にのった」というワケだ。さらりと紹介したけれど、かなり画期的なことで、宇宙に気軽に行ける第一歩なのである。

ロードスターが宇宙へ行くことの意味

このロードスターが宇宙に旅立つことになったウラ話をしよう。もともとマスクは、赤と黒、2車種のロードスターを所有していた。今でこそ、時価総額でGMを抜き、全米トップの企業価値を誇るテスラ・モーターズだが、創業間もなくは、当然、産みの苦しみが伴ったに違いない。

「ロードスター」を発売すると宣言しても、数年間は一台も公道を走る市販車が送り出せずにいた。2008年にようやく市販にこぎ着けたものの、最後のモデルが世に送り出された2012年までの間にわずか2500台しか生産されていないことからも、その苦難のほどが想像できるだろう。実際、まだ「ロードスター」の生産を始めたばかりのテスラは、バックヤード・ビルダーのような様相だった。

ところが、その後はあっという間にフリーモント工場で「モデルS」を量産にこぎ着け、SUVの「モデルX」でラインナップを広げて、「モデル3」では数十万台の生産台数を目指す段階に至り、いまでは、EVスタートアップというより自動車メーカーと呼べる規模まで拡大している。そして昨年11月には、「ロードスター」を2代目に進化させると発表したばかりだ。

今回ファルコン・ヘビーに乗せられたのは、“シグニチャー・カラー”とされる赤いボディ・カラーを持つモデル。初代「ロードスター」がテスラの黎明期を担い、その役割を終えて宇宙に旅立ったと思うと、初期のテスラを知るものとしては感慨深い。さらにいえば、「ガソリン車は宇宙では空気がなくて走ることはできないが、EVなら火星を走れる、かも?」といったメタファーもあるに違いない。

野心的にも火星移住計画を打ち出しているマスクは、テスラ「モデルS」の搭載された大型ディスプレイに“マーズ・モード”を追加したりもしている。画面に表示された火星のアイコンをタッチすると、火星の表面が表示される。ただそれだけなのだが、彼にとって、テスラと宇宙がつながることの意味合いは大きいのだ。

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そして実はここに、彼の事業構想の独自性が見え隠れする。マスクはもともと、「EVを作りたい」とか「ロケットを開発したい」といった風に、個別には事業を考えてはいない。エネルギー問題の解決、持続可能性の追求、そして宇宙をテーマに事業を構想し、イノベーションを起し続けているのだ。

その考えの根底にあるのが、彼が常に引用する物理学であり、誰のマネでもなく、原理に基づいた推論と、それを実現する確からしさの検証なのだ。

スペースX製のファルコン・ヘビーにしても、効率よくエネルギーを使用し、ロケット(の一部)を再利用することは、物理学の原理原則に従って、持続可能な未来を見据えた構想であり、宇宙を含めたマスクのアイデアに沿った事業なのである。もちろん、テスラも例外ではない。単なるEVスタートアップではなく、「石油依存の社会から、再生可能エネルギー主導の社会への移行を加速するために創業」された企業であり、エネルギー効率と持続可能性の両面から合理的だと推論したのがEVであった、ということなのだ。

だからこそ今回、ファルコン・ヘビーにテスラ「ロードスター」が搭載されて、太陽を巡る軌道にのったことは、マスクにとって、事業構想の根本にある持続可能性とエネルギー問題と宇宙を一つに融合したという、重要な意味合いを持つ。

一見すると、突拍子もない事業アイデアで周囲の度肝を抜くマスクだが、彼自身の考えは常に物理学の原理原則に則って一貫している。それは今回のファルコン・ヘビーにロードスターを搭載して、宇宙に打ち上げたことからも見て取れるのだ。

文=川端由美

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