ビジネス

2018.07.25

「この分野で生きる」と決めなくてもいい? 若手起業家が先輩に聞いてみた

(左)新居日南恵 manma代表取締役社長、(右)山田メユミ アイスタイル取締役兼CQO


12時間の面談がもたらした1億円の小切手

新居:がむしゃらに仕事をされてきた時代に、支えになったような経験や、大切にしていた言葉はありますか。

山田:これまで本当にたくさんの方にお世話になってきましたが、ご恩と共に感謝を忘れることがない、ひとりのエンジェル投資家の方がいます。出会ったのは、私たちがサービスを立ち上げて一年も経たない頃のことです。

アイスタイルは、増資をして事業を拡大したいと考えているタイミングでしたが、ちょうどネットバブルがはじけ、拡大どころか会社が立ち行かなくなるかもしれない事態に陥っていました。

共同創業者の吉松と、様々な投資家とお会いして資金調達を模索する中で出会った方なのですが、初めてお会いした日、昼の11時から夜の11時まで12時間という超時間たくさんの会話をしました。

会社を始めて数カ月の頃ですから、当然何の実績もありません。それに、お相手は当時60〜70代の方だったので、インターネットで化粧品の情報を扱うサービスには、全くご興味がなかったと思います。

でも、「私たちがどんな志を持ってこの事業にあたっているのか」について、繰り返し質問を投げかけていただきました。振り返ってみれば、質問されたことはその一点に集約されていて、禅問答のようでしたね。きっと、私たちがブレない気持ちを持っているのかどうかを見ておられたのだと思います。

新居:すぐに支援が決まったのですか。

山田:それが、その場で支援をご決断くださったのです。1億円の小切手なんて、生まれて初めて見ました。震える手で小切手を受け取ったことは、今でも鮮明に覚えています。

新居:すごいですね。お二人のブレない気持ちが伝わって、1億円という支援に至ったのですね。

山田:使命感を持って全力投球で事業にあたってきましたが、自分たちの力だけでは乗り越えられない壁もあった。決して忘れることのない出来事です。だからこそ、志を持った誰かから「ヘルプ!」と言われたときには、最大限応えたい。それこそが、あの日私たちが受けた支援に対する恩返しであり、義務だと思っています。

「この分野で生きていく」がなくたっていい

新居:山田さんは、いつ「この分野で生きていこう」と心を決められたのでしょうか。同世代で話していると、「自分は一体どの分野にフォーカスするべきだろうか」という話題がよく挙がります。

山田:実は私は、この分野で生きていこうという確固たる軸はありません。化粧品の開発に興味があったので、新卒では化粧品の原料メーカーに入りましたし、今は美容のITサービスを展開しています。

化粧品という商材自体の魅力はずっと感じていますが、「化粧品でなければダメだ」とか、「絶対ITにかかわりたい」ということはありません。得意分野だけで勝負したいという感覚もないですね。

M&A先の代表に就く経験などもしてきましたが、いつも思っているのは、「社会に対して我々がどんな価値を提供できるのかを純粋に考え、つながったご縁の中で、自分ができることを最大限やる」ということだけ。
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文=伊勢 真穂

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