ウェアラブルデバイスで愛犬の心拍数や歩数を計測し、ネットワークカメラを通じて家でどんな風に過ごしているのかをスマホで観察……。
いま、最新テクノロジーで愛犬や愛猫との暮らしをサポートする「ペットテック」が少しずつ日本でも普及している。例えば、ソフトバンクのビジョン・ファンドがアメリカの散歩代行スタートアップに3億ドルを投資、楽天はペットが加入できる保険の運営会社を買収した。
そんな中でも異彩を放つのが、「鼻紋プロジェクト」だ。犬の鼻を指紋のようにスキャンし、個体を識別する。「犬のマイナンバー」とでもいうべきテクノロジーの実現を目指している。
鼻紋プロジェクトの狙いは? そしてペットテックの将来は? 鼻紋プロジェクトをリクルートテクノロジーズと共同で運営するシロップの代表・大久保泰介に聞いた。
──まずは鼻紋プロジェクトについて教えてください。
犬ごとに異なる鼻の模様「鼻紋」を読み取り、個体を識別するサービスです。スマホアプリで撮影した画像をAIで認証します。撮影から照合認証までスマホアプリ内で完結します。技術部分はリクルートテクノロジーズが担当し、特許も出願中です。世界的にも類似研究は確認できていません。
まだ実証段階ですが、これまで兄弟犬を含む約1000頭の鼻紋画像をベータ版のアプリやフォトコンテストで収集しており、綺麗に鼻紋が撮影できている場合は上位3位以内での照合率100%を達成しています。成長や顔に傷が入ったときにも問題なく認証できるのかは、まだ検証が必要です。
ちなみに、猫での実証実験はまだできていません。猫はなかなかじっとしてくれないので、そもそも写真を撮りづらいんです。
──照合率100%はすごいですね。これはどのような形で使用するのでしょうか。
紙での管理となっているワクチンや狂犬病のデータ管理、宿やドッグランなどペットが訪れる施設でのO2O認証などでの活用を検討しています。例えば東日本や熊本での災害時に飼い犬が迷子になったとしても、犬を拾ってくれた人がアプリで鼻紋を読み取ったらその位置が飼い主まで転送される、というようにです。迷子犬を減らすことは殺処分になる犬の数を減らすことにも繋がります。
IDの活用から目指すべきは、犬版の「マイナンバー」です。ブロックチェーン技術を導入すれば、それぞれの犬がどのブリーダーのもとで生まれて、どこで育ったかなどまで分かるようになります。
実はこうしたID管理はすでに存在しています。環境省がペット所有者に対してマイクロチップ(電子タグ)の埋め込みを推奨しているんです。ですが、抵抗感をもつ飼い主も多く、普及率は高くありません。鼻紋認証なら動物の身体にものを取り付けることもないので、前向きに捉えられやすいかもしれませんね。
家族の一員であるペットのためのサービス
──続いて、ペットテックについて伺います。シロップのオウンドメディア「ペトこと」では、2018年はペットテック元年だと紹介されています。その理由を教えていただけますか。
IoTやシェアリングエコノミーなど、「人」のトレンドがペットに流れてきているんです。外で犬を飼うのが当たり前だった時代から、いまは屋内で飼うことが当たり前になり、ペットを家族の一員として大切にしている家庭が増えています。これらの健康や安全に関するサービスは、家族の一員としてのペットとも相性がいいのでしょう。医師やトリマー、飼い主の中心世代がデジタルネイティブになりつつあるというのも大きいですね。
シロップでサービス設計のベンチマークにしているのは、人間を対象にした類似サービスです。例えば、ペットを飼いたい人と保護団体を結ぶマッチングサービス「OMUSUBI」は「ペット版Pairs」を、目指しています。