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2018.06.29 07:30

仏マクロン大統領の『革命』と教育改革


現場への信頼と、国家の役割

マクロン大統領が提唱する教育改革とその根底に流れる価値観が、私がこれまで現場で感じてきたことと非常に似ていることも驚かされたが、『革命』を読んで最も感銘を受けたのは、実は少々違うポイントにあった。

本の冒頭「思想」のセクションで、彼はこう述べている。

「国家の仕事は、国民に何かをしろと命じたり、国民を国家に従わせたりすることではなく、国民に奉仕することにある。(中略)国家に奉仕することは、幸福と正義を望んでいる国民の意思を信頼することに他ならない。その意思はこれまでしまいこまれていたが、確かに存在している。従って、国家とは、まずは規制し、禁止し、管理し、罰するために存在しているのではない。自分自身の手では幸福を実現できない弱者だと決めつけられた社会集団の保護者となるためにあるのではない。反対に、自らの国家で偉大な歴史を作り出そうという動きを取り戻すために存在しているのだ。社会そのものがイニシアティブをとり、身をもって体験し、適切な解決策を見つけられるよう、その手助けをするために存在するのだ」

この文章の中に、私はマクロン大統領の国民や現場への信頼を感じ、“国家は現場が自発的に様々な社会問題に対して解を見つけようとする動きを支援するために存在する”という国家観をみる。それこそが、少なくとも教育現場に十年間身を置いて最も私が強く感じてきたことであり、もしかすると日本という国が分野を問わず、今後追求していくべき姿なのではないかという気もする。

この国家観の実現には、政治家の皆さんに中央政府や地方自治体の役割を改めて考えていただくことに加えて、私たち一人一人が自分の役割をどう捉えるかという意識改革と、実際に行動し変革するための能力の養成が欠かせない。

次回の記事では、こうした考えに基づいて、私が次の十年で取り組みたいと考えている新しい教育事業について、触れてみたいと思う。


今年5月末、私たちの学校「UWC ISAK Japan」は第2期生の卒業式を行なった。

連載 : 日本と世界の「教育のこれから」
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文=小林りん

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