ビジネス

2018.06.02 12:30

発達障害の子どもを支える「株式会社」の挑戦


「株式会社」にこだわり支援を続ける理由とは?

上木さんが「あすはな先生」を立ち上げたもう一つの理由は、臨床心理士の働く場所を開拓すること。起業を決意したのは21歳の頃だった。

「当時、大学3年時点で、8割以上が臨床心理士になるために大学院に進む進路を希望しているような環境でした。私も元々は大学院に進学することを当たり前に考えていたのですが、他大学の友人が就活をはじめたころに、自身が臨床心理士になったあとの将来を考えました。そして、仕事や収入を考えると、「これはなかなか報われないなぁ」と感じたんです」

優秀な同級生たちが、熱い想いを持って人や社会の役にたつために臨床心理士を目指す姿を見ながら、「そんな彼らが報われない社会はおかしい、社会的な損失だな。彼らが活躍できて報われる環境をつくらないといけない。環境を作るためには、経済に影響を与える事業を生み出さないといけない」と考えたという。


クリップオン・リレーションズ創業者 上木誠吾

確かに、臨床心理士の労働環境は安定しているとは言えない。公益財団法人「日本臨床心理士資格認定協会」によると、2017年時点での臨床心理士の数は3万4504人。約7割が大学院を卒業し、修士や博士の学位を有している。しかし、その半数近くは非常勤での働き方であり、平均年収は100万〜400万円が半数近くを占めている。

上木さんが、“株式会社”にこだわり起業したのは、こうした背景が強く作用している。
 
「子ども支援で必要なのは持続性です。支援を持続可能なものとするには、支援ができる人材が育ち、辞めることなく増えていくことが求められます。そのためには、支援を行う人がプロとして正当な報酬を受け取ることができる環境を作らなければなりません。だから私達は、制度に縛られず、しっかりとしたビジネスとして成り立たせることで、専門家が持続的に活躍できる環境を生み出し、拡げていくために株式会社を選択しています」
 
起業から10年以上、「あすはな先生」は毎年売り上げを伸ばし、成長を続けている。昨年からは、全国どこからでもオンラインで受講できる人材育成講座もスタートさせた。目標は心理士集団の会社としてのIPO、つまり株式市場での上場だという。持続可能なビジネスに成長してこその支援だと上木さんは強調する。

「私たちの塾や、他のデイサービスに通っているということを隠される方もいますが、それって不健全だと思うんですよね。胸を張って、自分の個性や特性を活かすために行っているんだ、と言える社会にしていきたい。知ってもらうことが支援の最大の入り口。理解が広がって、一人一人の特性やニーズをつかめるようになると、社会にとってプラスとなり、活躍できる人がより多く生まれると思っています」

連載 :堀潤が見た非破壊イノベーション
過去記事はこちら>>

文=堀潤

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事