文部科学省は、全国の公立小中学校の約5万人を対象にした2012年の調査結果で、「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされる、いわゆる“発達障害の可能性のある”児童生徒の割合は6.5%であると公表した。
ところが、そのうち「特別な教育的支援が必要と判断している」と答えた公立の小・中学校は約18%にとどまっており、発達障害の可能性が指摘されていながら、教室内で周囲も本人も困惑を続けながら孤立しているケースが少なからず存在することが読み取れる。
上木さんは、発達障害と診断されず、特別支援学級などで専門家からの教育を受けられないこの「グレーゾーン」の子どもたちへの支援に、潜在的なニーズを見出した。
「あすはな先生」立ち上げの理由を、上木さんはあらためてこう語っている。
「グレーゾーンの子どもたちは適切な支援を受けられるだけの環境を得ることができず、周囲だけでなく、自己の理解も得られないため、二次障害(特に精神疾患)に発展する可能性が高い状態にあります。二次障害としての精神疾患は、そこからひきこもりなどにつながり、ニート、貧困にもつながります。
適切な対応ができる支援者が側にいれば、二次障害を起こさずに自立して活躍する道が拓けます。自立して活躍できるようになるのは、本人や家族はもちろんのこと、国にとっても社会保障費や労働力などで大きなインパクトがある話だと思っています。
適切な対応ができる支援者であるためには、発達面、認知面、情動面、障害特性面、病理面などをアセスメントし、対応できるスキルが必要です。そのスキルを訓練され、対応を期待されるのが「臨床心理士」です。ただし、臨床心理士が側で支援するためには支援できる枠組みが必要となりますが、「カウンセリング」や「心理療法」を医療や福祉として提供することは、診断や手帳などが必要となり、グレーゾーンの子どもたちには届きません。
そこで、「勉強を教える」という必然性のある行為を挟むことで、必要とする子どもの側にいることができるようになり、適切な支援をできるようになります」
子どもにとっても、親にとっても
「息子が勉強したいというので、通える塾をいっぱい調べたのですがどこにもなくて。この子がハンディキャップがあるということを、最初は病院に認めていただくことができなかったので、探すのには本当に苦労して。そんな時『あすはな先生』のチラシをいただいて、やはり飛びつきましたね」
こう話してくれたのは、10歳頃から「あすはな先生」に通う18歳のけいすけ君(仮名)の母親だ。「あすはな先生」に通い始めて以降、けいすけ君の大きな変化を日々実感していったと言う。
「家庭教師から始め、一歩ずつ進んで、『あすはな先生』の教室に通えるようになるという大きな進歩がありました。欠点があればそこを補ってくれ、次に必ず伸びている。もっと多動でコミュニケーションも取れなかったのが、必ず約束を守り、行動もサッとやってくれるようになりました。自閉症特有の『こだわり』も薄れています。すごく大きな変化が目に見えて現れたので、正直驚きました。自分を出せる場所でもあったのか、自信もついて。彼にとって本当に大きな存在だったと思います」
また、母親自身の心をも、「あすはな先生」は支えてくれたと振り返る。
「とても安心しましたね。定期的にお電話をいただくのでその都度、息子の状態を伝えていました。報告レポートも毎月届いて頼りになりました。私は叱る時、親だから頭ごなしに感情が入れてしまう。でも『ちゃんと相手の話を聞き出して、それから何かあれば一呼吸置いて、場所を変える』など、『あすはな先生』で教えていただいたことを頭に浮かべながら行動に移しています」