あの手この手で社員の心をつかめ 米トップ100企業の“具体策”
人材の奪い合いに各企業がしのぎを削るいま、従業員を魅了し、離職させない待遇とはどのようなものなのだろうか。先達に倣おう。同ランキングの従業員待遇部門No.1は、半導体メーカー「エヌビディア」だ。
同社はアップル、グーグル、フェイスブックといったシリコンバレーの巨人たちと、IT業界のトップティア人材を奪い合っている。当然ながらサラリーは高水準だが、サラリーのみに惹かれた従業員は、短期間で辞める傾向にある。
エヌビディアは優秀な人材を確保するため、どんな労組も引き出せなかった制度を全社員に提供している。たとえば、出産した女性社員は22週間の有給休暇を取得できる。学生ローンの返済は毎年6000ドル(総計3万ドル)までの補助がある。体外授精や養子を迎える費用を補填する制度も始まり、卵子凍結も近く対象となる見込みだ。さらに、給与の10%までの範囲で、人気沸騰の同社株を15%引きで買う権利もある。
現在、エヌビディアの離職率は5%。これはライバル各社の半分だ。同社は16年にS&P500の構成銘柄中で最良の株価パフォーマンスをたたき出し、投資家に224%のリターンをもたらした。17年に入ってからも、12月前半までの時点でさらに75%株価を伸ばしている。実に、S&P500種指数の上昇率の約4倍である。
社員向けトレーニング制度の拡充もひとつの方法だ。コンサルティング大手・アクセンチュア(同ランキング6位)は、事業の軸足をクラウドやセキュリティサービスに移すのに伴い、4年間で14億ドルを投じて社員のスキルをてこ入れすると発表した。
現在の売り手市場と急速な技術の進化を鑑みれば、最先端の専門家を新規採用し続けるというやり方は、企業にとって現実的ではない。また、継続的な成長の機会が与えられる環境は、言わずもがな労働者にとって魅力的だ。
また、ミレニアル世代の社員にとっては、ワーク・ライフ・バランスを高める制度が魅力的に映るだろう。たとえば不動産情報サイトのジロウ(51位)では、42歳のCEO、ラスコフが自ら範を示している。出張の日以外は17時半には帰宅し、朝8時半まで携帯の電源をオフにする。その時間を、6歳、9歳、12歳の3人の子どもと過ごすのだ。
家族に関する福利厚生の導入が燎原の火のように広がっているのは、若い企業ばかりではない。ジョンソン・アンド・ジョンソン(35位)は16年に不妊治療の補助を2万5000ドルから3万5000ドルに増額したほか、代理母への謝礼に最大2万ドルを補助すると決めた。「競争は熾烈です」と、同社の最高人事責任者であるピーター・ファソロは言う。
老舗企業が積極的に取り入れているもうひとつのトレンドがある。多彩な福利厚生メニューのなかから好きなものを選ぶ「カフェテリア・プラン」だ。
世界全体で9万5000人の従業員を抱えるプロクター・アンド・ギャンブル(15位)では、給与の1〜2%相当額を、自分で選んだ福利厚生サービスに充てることができる。傷害保険やファイナンシャル・プランニング、休暇の追加など、選択肢は多岐にわたる。
ハーシーCEO ミッチェル・バック
創業123年になるハーシー(50位)も16年、ホワイトカラーの社員向けに「スマート・フレックス」と呼ぶ一連の制度を導入した。新たに子どもをもった社員の休暇制度(まとめて取ることも、分散することも可能)や、在宅ワークとフレックス勤務といった機会拡大をはじめ、社員をエンパワーメントするための、さまざまな制度が盛り込まれた。
そして同社のこの姿勢は、明文化されたものにとどまらなかった。17年9月にハリケーン「マリア」がプエルトリコを襲った直後、ハーシーはある新規採用者を同地からニューヨークに移らせ、アパートに落ち着かせた。そのためだけに、9000ドルを費やして。