それって本当に健康に良い? 「強い根拠」で日々の選択を覆す本

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「番組タイトル成功の法則」なるものを聞いたことがある。4文字の略称で呼べるようなタイトルだと親しみを持たれやすいという経験則だ。

「イッテQ」「いいとも」「めちゃイケ」「ロンハー」、新旧含め人気番組はたしかにこの法則が当てはまるものが多い(そのせいか近年は「あさイチ」や「スッキリ」みたいにのっけから愛称を狙ったかのようなタイトルが多いような気がする)。

この法則はテレビ業界の外でも通用するようで、「セカオワ」とか「ポケモン」とか、ヒットしているものには、正式名称よりも愛称のほうが定着しているものが多い。

ならばこれはどうだろう。こちらも間違いなくこれから大ヒットしそうな本なのだが。

『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』津川友介(東洋経済新報社)。

「せかシン」?「きゅうしょく」?……うーん、イマイチおさまりが悪い。だが実はこのタイトル、ある意味すごくおさまりがいいのである。なぜなら、まさにこの長いタイトルこそが、本の内容を的確に言い表しているからだ。

そこで、質問である。みなさんは食事に気を配っているだろうか? 何か体にいいものを意識して摂ったりしているだろうか? おそらくほとんどの人が「Yes」と頷くだろう。

ところがなぜ「体にいい」と判断したのか、その根拠を問われた途端、なんだか曖昧な返答になってしまうのではないだろうか。「なんとなく世間でいいとされているから」とか「テレビですすめていたから」「SNSで評判になっていたから」とか、おおかたそんなところだろう。

中には「この食品(やサプリ)には科学的にいいというエビデンス(根拠)があるから」などと自信満々に答える人がいるかもしれない。だが、一見もっともらしい意見に聞こえるこの“エビデンス”こそが、クセものなのだ。

エビデンスは「ある」だけでは足りない

本書の著者はハーバード大学で修士号と博士号を取得し、現在はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で内科学助教授を務めている。医療政策学者で医師でもある著者が本書で注意をうながしているのが、“エビデンス”という言葉の使われ方だ。いまやすっかり世間に浸透したこともあって、「エビデンスがある=真実」ように扱われるケースをしばしば見かけるが、実はこのエビデンスにはレベルがあるのだということはあまり知られていない。

ためしに「エビデンス ピラミッド」というふたつのワードで検索してみてほしい。文字通りピラミッド型の図が出て来るはずだ。ピラミッドの最下位のレベル6から上に行くほどエビデンスの信頼度が高くなっていく。ちなみにもっとも下に位置するのは「試験管の研究」、そのひとつ上が「動物を使った研究」となっている。

ここで注意してほしいのは、試験管の中だけ、あるいはマウスを使った実験だけでも、何らかの反応が認められれば、「エビデンスはある」と言えてしまうことだ。

だがエビデンスで大切なのは、「ある」か「ない」かよりも、「強い」か「弱い」かである。試験管の中で確認できたくらいではエビデンスはまだまだ弱い。つまり信頼度は低いのだ。それでは「最強のエビデンス」とは何だろうか。それは、メタアナリシスという研究手法によって導き出された結果である。

メタアナリシスは、信頼度がきわめて高い研究結果を、しかも複数とりまとめたものだ。いくら信頼度の高い研究であっても、ひとつだけであれば、結果には例外があり得る。だが、10も20も同じような結果を示す研究があれば、それはかなり信頼ができるとみなしていい。

本書はこのメタアナリシスによって導き出された、現時点でもっとも「正解に近い」と考えられる食事についてまとめた一冊だ。まさに書名にあるように、「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事は何か」ということが書かれているのである。
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文=首藤淳哉

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