実はクラウドファンディングが登場する以前、03年から同様の試みはあった。
ビジネスプロデューサーの内田研一は、同年、関東経済産業局から「中小企業に補助金を出しても、下請けから脱せる企業がない」と相談を受けた。商品企画力と販路がないためだが、そこで内田が「私がコンサルをやりましょう」と提案した。
「埼玉県の入曽精密さんとつくった第一号の商品が『世界最速のサイコロ』です。重要なのは、会社のビジョン、コア技術、ユーザーが認める価値が、一本線でつながって商品になっているか。同社は極微細加工を武器としています。サイコロはチタンで重心が限りなく真ん中にあり、重さを均等にしている。そしてサイコロの目の彫り込みを3ミクロンと超浅くして、空気抵抗を抑えています。なぜ世界最速かというと、実はF1エンジンの部品を製造しているからです。精密切削技術で世界に貢献し、誰にもできない切削に取り組むという理念、世界最速というキャッチーさ、技術の本質を極めたアイデア。メディアで話題になり、本業にプラスになりました」
内田は中小企業の現在地点を、「ピンチとチャンスの両方が増えた」と言う。
「下請けが仕事として成立しづらくなっています。グローバル競争により、コスト削減から値切られるし、即納を求められるようになって採算が合わない。明暗を分けるのは、発注元が、『嫌だったら取引をやめてもいいよ』と値切ってきたときに、押し返す強みがあるかどうかです。だから、仕事の7割は下請けで安定を確保しても、残りの3割で強みの独自性を発揮して新規事業に打って出る方がいい。
チャンスはクラウドファンディングなどツールが増えたことと、後継者たちの経験です。よその企業で他流試合を積んできた後継者たちが戻って来て、その経験を活かせれば、チャンスは増えます」
今回、受賞した経営者は全員、別の会社で働いた経験をもつ。クリエイティビティとは、自分の過去の経験、会社の強み、顧客を知ることの3つの掛け合わせだと気づかされる。そしてスノーピークの山井が「好き嫌い軸」と言うように、これは普遍的な法則だろう。
かつて中小企業のオヤジだった本田宗一郎もこう言っているではないか。「得手に帆を上げろ」と。