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ヴァルヨのCEOで共同創業者のウルホ・コンットリ(photographs by Sabrina Bqain)

期待されながらも開発は停滞気味だったVRヘッドセット業界。

フィンランドのスタートアップ「ヴァルヨ」は、大手メーカーを相手に新風を巻き起こすことができるのか。


2017年の夏。引っ越し前のオフィスは雑然としていた。オフィスには光学技術の開発専用の部屋と、ヘッドセットをテストするための暗室。

ここでヴァルヨの革新的技術が作り上げられた。ここまで、ほんとうに嵐のような日々だった...。

11年、順調だったノキアのモバイル向けOA開発プロジェクトが突然ストップし、それをきっかけにノキアの凋落が始まった。それは、ヴァルヨのメンバーにとってもキャリアの大きな転換点となった。

ヴァルヨの創業メンバー4人は、ノキアがマイクロソフトに買収されてからも残ってそれぞれの分野で活躍したが、ほどなくマイクロソフトもノキアを手放した。4人は、ヘルシンキに残る決断をする。

まだはっきりとしたビジョンはなかったが、「何か意味のある製品を開発したい」という思いで、少しずつ資金を集め始める。

文字通りガレージで作り上げた試作品を携えて、16年11月、4人はヘルシンキで開かれている世界中の技術者、企業、投資家らが一堂に会する大イベント「スラッシュ」に参加。多くの人から好評を得て、開発研究を次のステージに進めることにした。

プロトタイプのヘッドセットはやや重いが、人間が物を見る仕組みを研究し、模倣したことで、他社を上回る高解像度と、より自然でリアルな視覚体験を実現することができた。しかも、これらは既存の技術の組み合わせによって成り立っている。見方を変えれば、誰にでも発想可能なこと。ビジネスとして成立させるにはまず、米国での特許を取得することだ。とにかく、急がねばならなかった。

2017年の夏に取材で訪れたとき、「ヴァルヨ・テクノロジーズ(Varjo Technologies)」のオフィスはクリエイティブな店舗や企業が集結するヘルシンキの中心部、デザイン・ディストリクトにある間取り5部屋のアパートにあった。

そのうちの1部屋は、光学技術の開発専用の部屋で、もう1部屋はVR(仮想現実)のヘッドセットをテストする暗室になっていた。その他の部屋には高価な機材やスカンジナビア調の家具が無造作に置かれ、そこで従業員29人が仕事に追われていた。

オフィスは散らかっていた。引っ越し間近だったせいもあるが、スタートアップ企業だからこそでもあった。ヴァルヨは、競合他社がより優れた製品を発表してしまう前に、自社製品を市場に出すために急いでいたのだ。雑然としたオフィスは、成功にかける必死さの表れでもあった。

「失敗という選択肢はない」

壁のポスターにはそう書かれていた。ケネディ米大統領が、ソ連より先に人間を月に送り込もうと宇宙開発競争に乗り出したことを受けて、NASA(米航空宇宙局)の職員が発したとされている言葉だ。

文=木村理恵 編集=森裕子 写真=サブリナ・ブキン

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