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2018.04.09 16:30

フィンランド発!「高解像度ヘッドセット」の開発秘話

ヴァルヨのCEOで共同創業者のウルホ・コンットリ(photographs by Sabrina Bqain)


ヴァルヨはいま、VRと拡張現実(AR)を新しい領域に突入させようとしている。「オキュラス」を買収したフェイスブック、「カードボード」という安価な機器を開発したグーグル、「ギアVR」を開発したサムスンといった巨大企業による既存のヘッドセットをしのぐ、飛躍的進歩を探る取り組みだ。
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予算はごくわずか。だが共同創業者であるCEOのウルホ・コンットリ(40)と、デザイン責任者のローペ・ライニスト(40)は、見事なチームを集めた。ノキアやマイクロソフトで同僚だったウィザード級の技術者たち、そしてインテルはじめ半導体やゲーム開発会社の出身者たちだ。おかげで、技術面で優れた能力を得ただけでなく、リソースやマーケティング、運をめぐる、こうした企業にありがちなミスから学ぶこともできた。

人工知能(AI)と同様、VRは長年にわたり、過大な期待を寄せられる一方で、充分な結果を残してこなかった。VRの起源はゲームの世界にある。20年以上前にゲームセンターに置かれていたヘッドセット「セガVR」を覚えている人はいるだろうか。

VRはその数年後、今度はリンデン・ラボ社のオンラインゲーム「セカンドライフ」の3D世界という形で再び注目を集めるようになったものの、その後は10年にパーマー・ラッキーが開発したVRヘッドセット「オキュラス・リフト」の試作品が登場するまで、ほぼ姿を消していた。オキュラスはその後、20億ドル(約2200億円)でフェイスブックに買収されたが、以来、VR技術の進歩は漸進的であり、市場の受け入れ速度も緩やかになっている。
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今日、VR産業の規模は年間72億ドルにとどまっている。それはVR機器の大半が、重くて着用しにくく、視覚体験がお粗末で、着けるとすぐに吐き気がしてくるようなものだからだ。

超高解像度のMR体験

ヴァルヨのヘッドセットの試作品も、やはり着用者の頭部にはやや負担になるサイズだ。しかし、この機器をのぞき込んでも、さっき食べたランチをもどしてしまいそうにはならない。2つのディスプレイを搭載することで、人間の目が物を見る仕組みを模倣し、ヘッドセットの視覚解像度を劇的に向上させたからだ。VR体験を文字通り一変させたのだ。

じつは私たちが物体を見るとき、見えているのはカードサイズの縁がぼやけた長方形の世界でしかない。従来のVR企業はこうした人間の目の特徴を無視し、とにかく1つのディスプレイに改良を加えることで視界を改善しようとしてきた。現時点で手に入る最高のヘッドセットは「オキュラス・リフト」(400ドル)と「HTCバイブ」(600ドル)だが、解像度はわずか1.2メガピクセルだ。

それに対してヴァルヨのヘッドセットは、最大で70メガピクセルの鮮明な映像を提供できるという。既存の技術に工夫を加え、光学コンバイナーを使って2つのディスプレイを結合させた結果だ。1つはオキュラス製で比較的解像度が低い。もう1つは小型ながらもそれよりずっと解像度が高いソニー製のHDディスプレイで、ヘッドセットの上部に設置され、ミラーを通して1つ目のディスプレイにその映像が投影される仕組みになっている。

正常視力を意味する「20/20」と名付けられたこのヘッドセットはさらに、いわゆる「シースルー技術(透過技術)」を搭載していて、ARおよび複合現実(MR)体験を可能にしている。ユーザーは、仮想イメージとヘッドセットの内蔵カメラが捉えた現実世界を重ね合わせて見ることができるのだ。

試しにヘッドセットを着けてみると、記者は突如として飛行機のコックピットにいた。いくつものディスプレイやスイッチが点灯している様子やコンソールパネル上の一番小さな文字まで、鮮明に見える。急上昇して雲に突入した時には、ヘッドセットに搭載された2つのディスプレイの効果を最大限に味わうことができた。眼前の景色は強烈なほどクリアだが、視界の両端はそれほど焦点が合っていない。本当に飛行機を操縦しているような感覚なのだ。

次の“体験”では、誰かの家の居間にやって来た。部屋をぐるりと見回すと、ラックにぶら下がった服、クッションが置かれたソファー、テーブル、そこに置かれた1冊の本が見える。本のタイトルも、まるで鼻先から数センチのところに置かれているかのごとくはっきりと読み取れる。近視の人が眼鏡をかけたときのような感覚なのだ。


主なAR・VRヘッドセット。Gear VR(左上)、Oculus Rift(右上)、PS VR(左下)、Vive(右下)。
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文=木村理恵 編集=森裕子 写真=サブリナ・ブキン

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