BillSpringの開発に実際に使用されたノート。UXデザインの贅肉を削ぎ、デザインプロセスを短縮できる「Lean UX」の考えを開発現場に導入した。
FreshBooksの部外者にこの2つの事業の関連性が決して知られることのないように、デラウェア州で休眠中になっていた会社を使い、事業を開始。ホームページを設立し、弁護士を雇い、新しい利用規約とプライバシーポリシーの草稿を書かせ、MVPの製品化の〆切をほんの数日後に設定した。そして、15年1月15日10時、遂にプロジェクトは動き出した。ローリーは懐かしそうに言う。
「僕たちはボタンを押し、Googleの有料検索を通じて、BillSpringのホームページに呼び寄せる信号を、ネット上へと送信しはじめたんだ」
BillSpringは、初年度無料を謳い、見込み顧客が続々と申し込みだした。ようやく、FreshBooksのプログラマーとデザイナーはLean UXの理論通りに、市場で製品を試せるようになった。
学びは多くあった。説明書なしに、可能な限りシンプルに設計したつもりだった機能も、一部のユーザーにとっては直感的でなかったと反応から知ることができた。
結果的に、チームは製品開発とカスタマーサービスの間の線引きをなくした。そうして、ユーザーの声を聞き入れることで、製品の改善はどんどん進み、結果サービス開始から1年を待たずして、BillSpringを「new FreshBooks」として、お披露目できる見込みがついた。
16年2月、マクダーメントはついに、FreshBooksの大切なユーザーに18カ月かけて「new FreshBooks」を構築してきたことを告げた。一方で、BillSpringのユーザーにも、彼らのサービスが「newFreshBooks」であることが知らされた。ログインしたら、「new FreshBooks」のウェブサイトになる仕様に変えたのだ。この変更に対するクレームは、全くなかった。
こうして、FreshBooksは、毎週機能が追加される、使いやすい新しい会計ソフトへと生まれ変わったのだ。
このプロジェクトは、予期せぬ恩恵を組織にもたらした。「BillSpringが、会社のDNAを変えたんだ」とマクダーメントは言う。
BillSpring、続いてFreshBooks全体において、チームの働き方が大きく変わった。16年の終わりには、全てのデザイナーとプログラマーがスクラムチームで仕事をして、年間2000人のユーザーとコンタクトを取っていた。
コールセンターは、リリース後に顧客から頻繁なフィードバックを受け入れる貴重な機会。Freshbooksは、開発担当者がコールセンター業務を兼ねるという戦略を採用。
「私たちは常に顧客の近くにいたけれども」と、プロジェクト・マネジャーのアダム・デーヴィットソンは言う。「このやり方から獲得できる親密さは、間違いなく新しいものだった」
会社は急激な成長を続けており、17年は年商5000万ドルを超えることが見込まれている。マクダーメントは、このプロジェクト全体で700万ドルの経費がかかることを見込んでいる。果たしてそれだけの投資の価値があるものだったのか。彼がもはやFreshBooksの存続の心配をしていないことが、答えとなるだろう。
「これまで僕たちは、強力なプロダクトを持っているものの、世界レベルにはなりたくてもなれないものと思っていた。でも、BillSpringによって、僕たちはそのレベルに、到達したんだよ」
マイク・マクダーメント◎FreshBooks共同創設者兼CEO。2003年、実家の地下で経営していた従業員4人の中小企業向けデザイン会社で煩雑な請求書作成に悩み、自ら請求書作成ソフトを開発。FreshBooksの基礎となる。総額5700万ドル以上を資金調達。FreshBooksを通じて600億ドル以上の請求書が発行された。