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2018.04.01

TEDスピーカーも悩む「インポスター症候群」と「ヒーロー呪縛」

TEDレジデントのひとり、清水ハン栄治氏(Ryan Lash / TED)


BLACK氏は、筆者も見た2011年のTEDxTokyoでの素晴らしいステージが話題となり、翌年のTED予選を突破。2013年には日本初のTEDメインステージのスピーカー/パフォーマーになり、そこで圧倒的なスタンディングオベーションを受けました。

「あなたの話は素晴らしかった。特に教育にとても価値がある」「ぜひ我が社に来て話して欲しい」……BLACK氏がTEDでプレゼンテーションとヨーヨーパフォーマンスを披露して拍手喝采となった直後に寄せられた言葉です。

そして、かなわぬ夢と思っていたシルク・ドゥ・ソレイユへの道もひらけ、2014年、「キュリオス:キャビネット・オブ・キュリオシティーズ」というショーに史上初のヨーヨーアーティストとして出演を果たしました。

TEDスピーカーに見られる3つの問題

「とはいえ、TEDによる発掘は、スピーカーに新たな人生を授けることもあるが、時にそれは呪いとなり、苦しめることにもなる」とBLACK氏は言います。

BLACK氏はTEDxTokyoのキュレーターから、「キミは情熱と努力の人だよ」という天啓を受けました。自身の素晴らしさに気付いていなかった彼は、「あなたの素晴らしい面をぜひ共有してください」と言われ、TEDのスピーカーとして発掘されたのです。

「それまで知らなかった自分の一面が発掘され戸惑いもありましたが、その『情熱と努力の人』という名札は、次々と僕の人生を切り開いていきました」

TEDやシルク・ドゥ・ソレイユに出て有名になると、講演の依頼も多く、そういったポジティブ志向の話を続けていました。しかし、どこか自分ではないイメージをつくっているという違和感もあったそうです。

「情熱と努力の人」という名札は、少しずつ彼の首を絞めていきました。「本当は自分に甘いし、そんなに努力してないし、名札はウソじゃないか……」そんな葛藤もあったといいます。

そしてシルク・ドゥ・ソレイユに出演しているときに胃潰瘍を患うと、ストレスを避ける生活を送ることになりました。頑張り屋のBLACK氏は、「忍耐や努力をも避けることが増えている。こんなの、情熱の人なんかじゃない。けど、頑張れなくなったなんて言ったら見捨てられてしまう......。本当に苦しかった」と吐露しています。

「情熱と努力」のヒーローとなったBLACK氏は、それこそが自分の魅力であり、そのイメ ージに合わせなければならないという呪縛に苦悩したのです。現在は、自己の定義は変化して良い、自分の本当の魅力は「情熱」ではなく「正義と美学を重んじる事」だったのだと自己イメージを刷新し、やっと乗り越えられたといいます。

これまで述べてきたTEDのスピーカーに見られる3つの苦悩は以下の通りです。
選ばれても自分がふさわしいと肯定できない
目標とする人を神のように思い、自分とは遠いと考える
こうあらねばという像に縛られ、自分を苦しめる

自己の過小評価、相手の過大評価、自分を特定の姿に縛ること、またはそれらの組み合わせ。これらは、TEDのスピーカーだけでなく、多くの人が味わったことがあるのではないでしょうか。

TEDで講演するような著名な人でもインポスター症候群になることを知れば、不安は和らぐかもしれません。BLACK氏のように、神とあがめていた達人が自分と同じただの人だと思えるようになることで、大きな成長を遂げることもできます。

試行錯誤はあるでしょうが、メンターのような人との対話、そして自分との対話を通して、3つの悩みは乗り越えられるかもしれません。要は心の持ち方がとても大切なのです。

文=本荘修二

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